Novelette

□比翼の双剣 連理の王笏 ー旧き友の絆ー
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 ファルジュ皇国の帝都ハイリヒは、いつになく賑やかな活気に包まれている。

「いやぁ、めでたい。めでたい。なぁ、おい」
「あぁ。昼間のパレードを見たけどよ。若い皇帝の隣にいた、后妃様のべっぴんで綺麗で羨ましい限りだよな」

 下町にある一件の酒場では、昼間行われた若き皇帝の盛大な結婚式について盛り上がり、人々は美酒に酔いしれる。
安くて美味い酒と料理が楽しめるとあって、下町に住む住民だけではなく、評判を聞きつけた商人や傭兵、中には貴族がこっそりと来店していると噂だが、この店を経営する店主のハヌマンはどの客も贔屓する事もなく、大いにもてなす。
この店で働くワングも、忙しくしていた。

「今日は忙しいっすね。マスター」
「おうよ。皇帝の結婚でドッと人がやって来たんだ。稼ぎ時ってもんよ」

 と、店主のハヌマンが返しつつ、次々と注文の料理を作りこれを、ワングが運んでいった。
そんな活気の溢れた店内の隅で、ポツンと一人だけ雰囲気にそぐわない者が静かに、杯を傾けているのをワングは気がつく。

(今日もいるな)

 この客は、別段に迷惑をかける訳でもないけれど、ワングはあまり好きではなかった。
注文は酒のみで、常連連中が話しかけてもポツリポツリと返すのみ。後は黙り込んでしまう。
客は、黒髪を結い涼やかな風貌をしているが、黒一色の服装でより他者とは一線を画する。

「はぁ、またあの客がいやがる」
「おい。つべこべ言うな。客は客だ」

 ワングの文句に、ハヌマンが叱る。
そう言われても、ワングは愛想笑いすら浮かべる事ができない。

(ちっ! 陰気で嫌な客だな)

 その客の姿格好と腰に差す見事な玉石が柄に飾られた、二振りの双剣によって流れの傭兵であるとだけわかるが、正体が知れないだけに尚更、ワングの印象は悪くなる。
だから、ついその客を睨んだ。
客はワングの睨みに気づいて、こちらへ視線を向けてきた。

(野郎! 気がつきやがって)

 と、対抗する様にしばらく睨み合いを続けていたが、やがてはぁと件の客はため息と共に軽く肩を竦めた後、立ち上がり支払いを済ませ店を出て行く。

「へっ! おとといきやがれってんだ」

 なんて独り言を漏らしたが、ゴンッと後頭部に痛みが起こる。
ハヌマンにサボるなと怒鳴られてしまい、ワングは散々な目に遭ってしまう。
そんな事があったものの、ワングは夜遅くまで仕事をして帰る頃には、真夜中を過ぎていた。

「はぁ〜〜、やれやれ。今日は大変だったぜ。早く帰って寝てぇ」

 そう言いながら、道を歩く。
今日は、盛大な催しがあったせいなのか、大通りとなる道にもチラホラと人がいるが、ひょいっと一歩路地裏へ足を踏み込むと猫一匹もいない。
けれど、ワングは大の大人の男だし、いつも夜遅くの帰宅だから慣れていた。

(へへっ。近道、近道っと)

 いつも通る道ではなく、住民たちの憩いの場として整備された公園を抜けて行こうとする。


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