彼方の地平線を越えて

□00:旅の道連れ世の情け
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 その出会いは突然だった。街道沿いにある宿場街を訪れたヴェルデテスは今夜の宿を求めて歩いてて、前から歩いてきた三人組の男たちの一人がヴェルデテスを見かけるや、わざと肩をぶつかろうとする。
が、ヴェルデテスの方はすぐにそれに気がつきヒョイと躱す。そのせいなのかそいつはたたらを踏む。

「おいっ! 待ちな!」

 声をかけられたが、ヴェルデテスは無視してそのまま行こうとするが別の者が素早く進路を阻むので、仕方なく足を止めた。

「随分、なめたマネしてくれるじゃねぇか?」

 三人組の中でリーダー格なのかスキンヘッドの大柄な男が、ヴェルデテスに凄む。そのヴェルデテスは終始うんざり顔をしため息をついた。

「なめたマネって……。何もしていないが。それに、こっちにぶつかって慰謝料やら何やら文句をつけて金をせびる魂胆なのは、見え見えだ」

 指摘すると、三人組はニヤリと笑ってヴェルデテスを囲む。道にはヴェルデテス以外の通行人がいるのでそれらも何事かと、視線を向ける。

「わかってるじゃねぇか」
「痛い目遭いたくなきゃ、言う通りにしな」
「なんなら、金以外のものっていう手もあるぜ」

 最初にぶつかってこうようとした者が意味深に言うと、卑しげな目つきでヴェルデテスをジロジロ見た。これを感じ取ると、ヴェルデテスはまたかと思い嘆息する。
何せヴェルデテスは白磁の陶器如くの白い肌、細身でしなやかな身体つき。人間とは異なる長い耳をしているのはエルフだから。澄んだ碧色の瞳が特徴的な女性に見紛う程の美貌は、否応にも目を引くだろう。
それを自覚しているだけに、三人組が絡んできた理由もわかった。

「悪いが私は、こう見えて男だ。それに金も渡さない」

 そう返して、腰元にそっと手をやる。ヴェルデテスの返答と様子に三人組はちっと舌打ちするが、強気の態度は崩さなかった。

「それでも構わないぜ」
「痛い目みて、後悔しろ」
「男かどうか、ひん剥けばわかるだろうからな」

 最後の言葉は聞き捨てできず、ヴェルデテスは苛立ちを露にする。

「この下種どもが!」

 声を上げ、ヴェルデテスが動こうとした瞬間だった。

「待て」

 別の方から声が飛んできたのでヴェルデテスも三人組も、ぎょっとなりそちらへ顔を向ける。ちょうど、三人組の背後に声の主が立っていた。
長身で大柄な体格をしており、頭は外套のフードで覆われて顔が見えないが、背中に背負う剣で傭兵なのが想像できる。思わなかった助けに、ヴェルデテスは戸惑う。
それは三人組も同様だが、彼らはヴェルデテスから新たに現れたこの者に絡み始めた。

「何だお前、どういうつもりだ」
「邪魔をするなら容赦しねぇぞ」
「顔を隠して、どんな面をしてんだ。なぁ、おい」

 と、一人が凄んで懐からナイフを取り出すやこの者の顔へ切りつける。しかし、見事な身のこなしでナイフを躱すがそのせいで、顔を隠していたフードが取れて素顔を晒す。
素顔を見た時、ヴェルデテスは小さくあっと声を漏らす。
顔は人間や妖人といったものと異なる獣の顔で、声からして男性とわかったが顔は狼である。獣人だった。
周りにいた野次馬たちもざわりとなり、この獣人を注目する。

「獣人!? 何で獣人が街に」
「いや、獣人を初めて見た」
「おっかねぇ。本当に獣が人間みたいにしてるのか」

 野次馬たちの声が聞こえ、ヴェルデテスは僅かながら顔をしかめるも当の獣人の方は慣れているのか、苦笑を浮かべていた。


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