始祖アダムは、妻エヴァの勧めによって神より禁じられし、果実を口にする。
それは、知恵の実であり神は生命の実を食べて、二人が不老不死になる事を恐れて、二人を楽園より追放された。
創世記にある、失楽園の物語だ。
これにより、人間は原罪を背負い生きているとされていた。
「けれど、それは否なものよ。それなら神は何故に人間から、知恵の実や生命の実を秘匿しなかったか」
と、言いながら、和服姿の女が足を踏み込んだ場所は、女がかつて暮らしていた邸である。
けれど、今は雑草が生い茂る荒れた庭や人気のない事から、邸は手つかずのままだった。
「真祖もニンベンも、吸血鬼として恐れられ人間社会の闇で生きていたのに……フフフ」
女は声を出して、笑いを漏らす。
彼女の名前は、音桐 真理架。そしてこの邸は惨劇の舞台となったありしの音桐邸である。
中へ入ると、惨劇の生々しい跡が今でも残っていたけれど、真理架は躊躇なく奥へ進み瞑目する。
「そう。全てはここから始まったの」
真理架は呟き、ゆっくりと瞼を開き笑む。
サウザウドワールドの戦いから、宵ノ宮市は平穏が訪れて、人々はすぐ隣で起こっていた事件を気づかないでいる。
音桐は、表向きの仕事である摩羯高校のカウンセラーを辞職した。
「別の場所の教会へ行かなければならなくなり」
と、学校にはそう言ったが実際は違う。
学校から教会へ帰り着くと、朔が入り口で待っていた。
「゙あの者゙の居場所を突き止めた」
朔は言うと、調査ファイルを手渡してくる。
「エヴァンジェルが消滅し、ブラッディ・レディも散り散りとなった。が、ニンベン自体はいなくなった訳じゃない」
「わかっている。だからこそ、こうして調査官として動き、場合によって噛み砕いている」
大元がいなくなった分、むしろ目が行き難くなっていた。
それだけに、朔や斉瑛の動きは情報収集だけでなく、狩人として優秀なので音桐としても、重宝するのだ。
「ま、散々。やれ淫行だのなんだのと言っていたクセに、お前もミイラ取りになるとはな」
「く……。い、言うな!」
顔を赤らめ、思わず朔が声を荒げて返してくる。
昼間の変化の後遺症が残ってしまい、斉瑛との関係が止められなくなってしまった。
朔とすれば、予想してなかった事だ。
音桐が、ふふんと笑いながらタバコを啣えつつ、ファイルを確認する。
「しかし、一人で動くつもりか」
「あぁ、俺と琉依でな。伯母さんは、未だに信じられないみたいだし、対決するのは戸惑っている」
そう言うが、音桐だって衝撃を忘れられない。
(殺したのが、俺自身だから尚更だな)
フッと、タバコの煙を吐きながら思う。
それと共に、エヴァンジェルの時と状況が違ってもいたのもあるが。