クルースニクの聖戦

□Act.13
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 ヴラディミルの魔力低下により、宵ノ宮市のニンベンたちの動きが活発となる。
中心となる駅前にあるデパートの上から、ガーイウスが哄笑を上げた。

「さぁ、女王に跪きし兵士たちよ。飲み、食らい、奴隷たちを貪るのだ!」

 ローマ皇帝として、君臨していたその姿を彷彿とさせている。
けれど、越 時貞は、沈んだ表情をし、ガーイウスの背後で佇んでいた。

「まだ、あの男に対して罪の意識を感じているのか?」

 ガーイウスが時貞へ振り返り、ふんと鼻で笑う。

「短い期間でしたが、神父に良くしてもらいましたから」
「くくっ。その割に、遠慮なくその神父へ幻術をかけて、同士討ちをさせて追い込んだ」

 ガーイウスの言葉に、時貞の眉が寄り不愉快な表情を見せる。
だが、口で反論をしなかった。
した所で、己の所業を今更なしにできないから。

「今宵は、月もない。闇の魔力が満ちる」

 それにより、ソーマでニンベン化した者たちが、あちらこちらで活発に蠢くのだ。
駅前の賑やかな通りから、一歩暗い路地へ入ったカップルが、突如として集団に囲まれている。

「おい! いい面と身体をしてるな」

 男の方が恋人を守ろうとするも、逆に返り討ちの目に遭う。
女性は、ニンベンたちに押さえ込まれなす術ない状況に追い込まれる。
その時だ。

「おいおい。ここは、平和な現代日本だぜ。よもや、百年戦争のフランスじゃあるまいし」

 その声と共に、女性を押さえ込んでいたニンベンたちの首が飛ぶ。
ニンベンたちが振り返り、ぎょっとなる。

「な……何だ。コスプレか!?」

 黒一色の甲冑を身につけ、手にはバスタードソードを担ぐ様に持つ。
まるで、中世の騎士そのもの。

「このジル=ド・レ様が、相手してやるよ」

 ニヤリと、ジル=ド・レことジル=ラヴァルが笑った。
けれど、ジルの他にもう一人の甲冑を着た者が現れる。
ジルとは逆に、白くて楚々とした装いの甲冑だ。

「ジル。私が相手をするわ」

 そう言って、彼女が手にするは軍旗ではなく、一振りの剣であった。
これを見て、彼女の本気を知る。

「オルレアンの乙女、ジャンヌ=ダルクの名に置いて……」

 ジャンヌの声に呼応して、周囲の風景が現代のビルや建物から、地獄の様な荒野となるのだ。
ニンベンたちだけでなく、カップルの二人も驚き動揺する。

「罪深い者たちへ、断罪の刃を!」

 言った瞬間、大地が裂けて炎が吹き出す。

「ギャアアッ!」
「止めろォォっ」

 炎を受けたニンベンたちは、悲鳴を上げ地面に転げ回ったり、自分自身の身体を叩き炎を消そうとするが。
消える事なく、しかもズブズブと肉体を焦がしてゆく。
けれど、同じ炎を受けながらカップルの二人には何も起こらなかった。


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