車内で斉瑛は、何度か暴れ逃げる事を試みるも、相手は女子生徒なのに自分の力がビクともしない。
「諦めて、無駄な抵抗を止めなさい。私は主に選ばれ力を与えられたの」
と、嘲りの含む言葉を斉瑛へと向ける。
「く……。これが、諸羽の言っていた吸血鬼の力か……」
「単なる、吸血鬼ではありませんよ。以前の様な弱点のあるものではなく、ハイブリット型です。ですから、ニンベン特有の弱点を減らし、魔力探査に引っかからない様になってます」
秋葉が説明する。
そんな秋葉を、斉瑛は睨みつけた。
「吸血鬼なんか増やしていったい、何がしたい!」
「私は雇われただけです。別に私自身は、何がしたい訳ではないですから」
そう返され、悠々としている。
秋葉には、命を助けてもらった恩はあるが、それを帳消しにする様な行為だけに、内心は哀しくなるのだ。
そんな斉瑛の心情を汲み取ったのか、笑みを消して窓へ視線を移す。
「ふふっ。あなたは偉大な主の血肉になるのよ。光栄な事ね」
血肉と聞いて、斉瑛の中で嫌な記憶が蘇る。
かつて、自分は生け贄としてなる運命を助けられたのだ。
(巡りめぐってまた……)
そう過りながら、顔を伏せる。
斉瑛を見ないようにしていて、秋葉は少し苛立ちを覚えていた。
自身の助けた者が、再び再会し今度は命を奪わねばならない事は、やはり面白くない。
けれど、表面には出さず黙ったまま乗用車が、聖エリザ学園へ入る風景を眺めていたのだ。
聖エリザ学園で、シスターとしている華恵が、ピクリと眉を動かす。
「何かしら。微かな魔力を感じるのだけど」
今まで感じなかっただけに、戸惑いを隠せない。
疑問に思いながら廊下を歩いてて、はっとなり柱の陰へ隠れ窓から外を、そっと覗く。
あの時計塔が開いており、女子生徒と秋葉が中へ入ろうとする。
すると、秋葉が意味深な視線を華恵の隠れている柱へ送った。
外では、女子生徒が怪訝な様子で秋葉へ振り返ったのだ。
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
秋葉は華恵や音桐たちの事を、実は他の者へは話してはない。
不敵に笑んだまま、女子生徒と斉瑛と共に時計塔へ入る。
「わぁ……」
思わず、斉瑛が感嘆を漏らす。
モダンな木製の建物で、洋風なのに和の装いのある造りで、目を引く。
一階は大広間でかつては講堂としての名残がある。
それから、二階へ上がると機械室などの部屋があり、その一室に斉瑛は閉じ込められた。
「出せ!!」
ドンッと扉を叩き、怒鳴るけれど相手にされずにそのまま、女子生徒と秋葉は立ち去る。
仕方がなく、斉瑛は座り込む。
琉依たちの助けを待つ以外に、方法はなかったから。
時計塔へ出て女子生徒が、鍵をかけようとしたけれど。