クルースニクの聖戦

□Act.2
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 この日、音桐が摩羯高校に来たのは、お昼の少し前だ。
あらかじめ、学校には神父同士の会合があるからと理由を作り言っておいたから、問題ないも。

「別にサボってもいいじゃないの」

 眉を寄せ、頬を膨らませるこの学校の生徒が、カウンセラー室にいるのだ。
生徒は諸羽 琉依で、音桐は軽く琉依の頭を小突く。

「さすがに、それは許しません。少しでも知識を入れておいても、損にはならないですし」
「ちぇ……」

 ホテルから出て、駅に寄るとあらかじめ用意してコインロッカーに預けていた荷物から、いつもの服装に着替えこうして学校へと顔を出す。
琉依には、粗野な態度や言葉遣いの音桐が、学校に来るや途端に鳴りを潜めるのが、不思議でならない。
その事を琉依に聞かれ、音桐はこう返す。

「処世術ですよ。琉依、覚えおいた身の為です」
「僕は裏表のある人間にならない主義だから、遠慮しておく」

 そう言うから、音桐はふふっと笑った。
もっとも、琉依に言った事だけではない。
神父という立場もあるし、目立つつもりがないからだが。

「そのバルバロイが、貴方を吸血鬼にした張本人ですか」
「うん」

 琉依は音桐へ、自身の経緯のあらましを話して情報を提供する。
そうして、少しでも音桐の役に立ちたいと思ったのだ。

「バルバロイに吸われた時も、嫌悪しかなかったのに。ご主人様は不思議と嫌じゃないよ」
「ご主人様って、別にそう言わなくても名前でも構いませんよ」
「うーーん。でも、自然とご主人様って出てきたからさ」

 琉依が言うと、音桐は苦笑を浮かべる。
けれど、悪くないなとも思うのだ。

「全く、とんでもない下僕なのに俺も、甘いものだな」

 と、つい本音を口にするのであった。


 昼休みとなり、琉依はカウンセラー室から離れ一人、屋上へと上がる。
空模様は生憎で、風も少しあるが琉依は気にしない。

「ふぁ……」

 昨夜や朝方の事もあり、ひと眠りといきたいと思うも、羽ばたき音にギクリとなる。
恐る恐る振り返ると、一羽の烏が建物の上に留まっていた。

「琉依、生きていたのか」
「なに、バルバロイ様」

 琉依は惚けてみるも、烏から不審そうな様子が滲み出ている。

「琉依、まさか貴様は裏切ったのか」
「裏切り? 何の事かさっぱりなんだけど」
「黙れ! 我の魔力が及ばないなおかつ、生きているなら一つしかない。貴様が別の者の下僕となったという事だ」

 烏から放たれる、バルバロイの叱責の声に琉依は観念したかの様に。

「そうだよ。でも、そうカリカリする必要ないと思うけど」
「血だけではない。その肉体を我は欲した」

 それを聞いて琉依の中で、先程の音桐との会話の中でニンベンたちの成り立ちの話を思い出した。


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