息を切らして、若者が走っている。
時には、歩道を歩く人とぶつかったりするが、若者は謝りもせず懸命に走っていた。
「はぁ、はぁ」
若者は、何度も後ろを振り返りつつ大通りから裏手へ入り、公園へと出る。
ようやく、若者は足を止め肩で息をしつつ、呟く。
「やっと……撒いたか」
安堵した直後、背後から気配を感じてはっとなり若者が、つんのめる様に地面へ倒れ込む。
若者の背中に、ピュッと傷口ができ血が飛ぶ。
闇を切り裂く様に、電灯の光に反射し煌めいて現れた細身の西洋剣。
それに黒い影もいる。
「くっ……!」
「手間かけさせんな。お前にもう、逃げ場がない」
と、ゆっくりと近づきながら、男は言う彼の手には剣が握られている。
若者がキッと睨んだ後、くくっと含み笑いをし。
「馬鹿が。こんな傷で、俺が死ぬかってんだ!」
そう言って、立ち上がるのだ。
公園に来たのも、逃げる目的より目立つ行動を避ける為であり、特に相手を殺すという行動を見られたくなかったから。
「死ねぇ!」
若者が叫ぶと、電灯の光で生まれた自らかの影が蛇の様に動き、男に向かって行く。
男はチッと舌打ち、それらを避け躱す。
「いい気になるな。いっぱしに魔力を行使しやがって」
華麗な足取りで、若者からの攻撃をひるがえし躱して、一気に間合いを詰めた。
「なっ!?」
「チェックメイト!」
若者の胸を、男の持つ剣で貫く。
胸元を串刺しにされ、若者は驚いた表情をするも。
「だから、俺はそんな事で死なないって」
「だろうな」
「血を吸い、魔力を持ち、闇と共に悠久を生きる……」
若者が雄弁に語りだすも、男は驚きもせず聞き流して当たり前の様に返す。
「吸血鬼様なんだろ」
「だから、そんな玩具に刺されても俺は……」
更に言いかけた若者だったが、男の唇の端がニイッとつり上がり、笑った。
明らかに、嘲りの含んだ笑みだ。
ガッと、若者の顎を掴んで挑発する。
「だったら、俺の血を飲んでみろ」
男の言葉に、一瞬はえっ?と若者がなり戸惑った。
若者の反応に、構う事なく男は自らの左掌で剣の刃を握る。
当然、掌は傷つき血が刃を伝ってゆき若者を突き刺す部分にも、男の血が滴り広がるのだ。
「ヒッ! ガッ!」
突如、若者を激痛が襲い若者の顔に苦悶が走った。
それから、男は思いきり剣を引き抜く。
辺りに若者の血が飛び散るけれど、すぐに渇きなくなってしまう。
若者は、全身の力が抜けそのまま地面へ倒れ伏す。
「た……助け」
男に必死に助けを求めたが、男は再びニイッと笑うや。
「い・や・だ」
と、若者の身体を足蹴にし喉元へ剣を突き刺すのであった。
若者は、喉元を貫かれ全身をわななかせ、やがて絶命するのだ。
次の日の早朝、犬の散歩で公園を訪れた人が奇妙な死体を発見する。
それは、干からびてミイラとなった、あの若者の成れの果てだった。