クルースニクの聖戦

□Prologue
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 イタリア、ローマの中にあるヴァチカン市国はキリスト教の総本山だ。
サン・ピエトロ大聖堂の前にある広場、サン・ピエトロ広場に多くの観光客が大聖堂を見つめる中、広場を歩く一人の神父がいる。

「音桐神父!」

 同輩の神父が、男の名を呼びながらやって来た。
音桐 狗璃須(おとぎり くりす)と言う日本名で、容姿もどことなく日本人ではあるけれど、微妙に瞳の色合いや雰囲気が純粋な日本人と違う。

「どうしました?」
「司教がお呼びになってました」

 それを聞いて、眼光を鋭く光らせたものの同輩には、気づかれない様に柔らかな笑みを見せて。

「そうですか。わざわざすみません」

 礼を言って、司教の元へ足早に向かう。
サン・ピエトロ広場は一般の観光客がいたが、一歩奥へ入るなり喧騒が消えて、厳かな雰囲気が辺りに広がっている。
スイス衛兵の横を通り過ぎ、ヴァチカンの中でも特殊な区域となる場所を音桐は入って進む
ここは、一般的な修道士は立ち入りを許可されない場所で、上位の司教や自分の様な者が入る事を許可されていた。

「司教。お呼びでしょうか?」
「来たか。音桐、そなたに頼みたい」
「私に頼むと言えば、一つしかないでしょう」

 苦笑混じりに、音桐が言うと司教も苦笑を浮かべる。
やがて、司教より告げられたのは極東への派遣であった。

「日本……ですか?」
「容姿などを思えば、そなたが適当であろうと決まってな。無論、それだけではないがな」

 司教の言葉を聞いて、心の中で笑い飛ばす。
もっとも、音桐も妥当だろうと思う。

「了解しました。すぐに日本へ向かいます」
「いつでも、そなたの側に神がいる。頼んだぞ」

 司教が言うと、音桐は頷き踵返すのだ。


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