この日の夜は岬にある拠点で、いつになく賑やかな様子を見せている。
それはその筈。負けていたジェノヴェア海軍だったが、昼間の戦いで相手の海軍提督を討ち取り、意気揚々となるのも当然だ。
「見たかよ。敵の兵士たちの顔。あんぐりと間抜けた表情だったな」
「緒戦の借りを返せて、胸がすくな!」
そう言って酒杯を傾けているけれど、全てのジェノヴェアの兵士がそうではない。
騒ぐ兵士を横目にし、複雑な表情の者もいる。
それが、ランスロット家の息のかかった兵士たちであった。
けれど、負けを取り返した事には文句がなかったから、さすがに黙っているが時おり騒ぐ兵士へ舌打つのだ。
兵士たちの様子に、フラガルとオスカーも満悦で見つめている。
「緒戦の手痛い負けを取り返せたのは、フラガル殿の功績だな」
「はっ。ですが、あの作戦の原動力は本隊あってこそですから」
謙遜するフラガルに、オスカーも満更ではない。
そうして、ジェノヴェア海軍は勝利に酔いしれている一方で、見張り台に立つ兵士は中での声を耳を傾けながら、不満を口にする。
「ついてねぇ。当直に当たるなんてよ」
「どうするよ。さすがに今夜は来ないだろう」
「ん?」
「どうした?」
見張り役の兵士の一人が、目を凝らす。
もう一人は、何事かと海と兵士を交互に見つめつつ聞く。
「いやな、あそこで何か動いた様な」
「おい! 脅かすなよ」
と、狼狽えて返す。
しばらく見ていたが、そのうちに。
「気のせいだ。きっと波間の錯覚だ」
「人騒がせな奴だな」
「おーーい」
そう言ってると、別の兵士が酒の入った水差しと酒杯、料理を手にやってくる。
「おぉ、これは」
「どうだ。持ってきたぞ。これで楽しもう」
「いいのかよ?」
「なぁに、今日はもう来ないだろうから、せっかくなんだし」
最初に文句を言っていた兵士は、目の前に美味そうな料理と酒がぶら下がっているだけに、否応もなく応じるが。
もう一人は、迷いを見せた。
けれど、一人だけ真面目にするのも馬鹿馬鹿しいから、そのうちに酒盛りに加わる。
そうして、彼らは暗がりの中、こちらへとやってくる小船に気づく事はなかった。
「ほ……本当によろしいのですか?」
「えぇ、ここから私一人だけで結構です」
小船に乗っているのは、ヴァニス海軍の兵士とそして、グンナー=ダインスレフであった。
フラガルの策略を見抜けなかった事に、グンナーは責任を感じてジェノヴェア海軍への潜入を、試みようとしている。
無論、これはグンナー自身だけの単独行動であり、平素ならこんな向こう見ずな事はしない。
しかし、ティソーンがいなかったと言っても、敵の策略によって海軍提督を倒された事は、言い訳できないと思う。
だから、こんなマネをしたのだ。