オケアノスの都 ー海神の三叉戟ー

□第8章 蜘蛛の糸
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 ローランの連行の報せは、リアルト島へ戻ってきたティソーンにももたらされる。
正直、報告を聞いたティソーンは悪い冗談だと思ったぐらいだ。

「はぁ!? 父上が、レージングルの暗殺の黒幕だぁ! しかも、イザベル補佐官の関連も……って、そんな訳あるか!」

 声を上げ、報告に来たカルヴァヌス家の従僕に食ってかかる。
従僕はティソーンの迫力に身体を竦ませるから、見かねてスクードがティソーンをなだめた。

「落ち着け。まだ、そうだと決まった訳ではないのだし、従僕に迫って困らせても解決しないであろう」

 これを聞いて、ようやく解放するのだからティソーンの狼狽ぶりは、それ程だった。
クルテルも、いつも目の敵をしているがローラン連行の情報は、気分がいいものではなかった。

「こうなれば、暗殺真相を何としても見つけなければ」
「あぁ。いくら、反感を抱いていた親とはいえ、目覚めが悪い」

 そう言って、クルテルとスクードを連れて早速、審判所へ向かう。
厳粛な建物を前に、ある人物と待ち合わせていたからだ。

「とんだ事になったな。ティソーン殿」

 その人物は、エルミス=シーク。検察官で実際に事件を調査、捜査を行っている。
イザベル補佐官の暗殺の調査を、彼と協力しているのだが。

「正確な状況を知りたい。話してくれるよな」
「ローラン様の連行に関して、困惑や戸惑いを抱いている者も少なくない。連行した司法官もローラン様を疑ってというより、真偽の精査の為という感じなのだから」

 ローランが黒幕だというには、証拠がろくにないからであり、しかもその発端が匿名の密告書が審判官に届けられたと、話す。
今の所、嫌疑という嫌疑ではないと聞いて、ティソーンの胸もようやく安堵した。

「誰だよ。父上を黒幕だなんて言ったやつは」
「これがティソーン。君なら疑うかもしれないけれど、君とは違ってローラン様の真面目さ公正ぶりは、皆の知る所だからね」

 エルミスからそう言われたティソーンは、ばつが悪そうにそっぽ向く。
スクードは苦笑し、クルテルにいたってはまともに笑い、肩を震わせている。

「クルテル、笑いすぎだろう」

 むくれた様に、唇を尖らせ言い返す。
そうして、ようやくエルミスが本来の話題を言うのだ。
イザベルの暗殺は、膠着状態で目ぼしい進展はなかったが、彼の暗殺は前々から計画をされていた節がある。

「強硬派であるレージングルの疑いは、濃厚であったが決め手がなかった」
「その上、当のレージングルが殺されたんじゃな」
「まさか、口封じか」
「レージングル卿をですか?」

 クルテルの言葉に、スクードが眉を寄せた。
しかし、ティソーンは別の事を考える。

(確かに、そう見えるがレージングル暗殺はどうも……)

 レージングル自身、危機感を抱いたなら海軍などに、護衛を頼むだろうし何かしら身辺を警戒しただろう。


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