思わぬ形で、下働きより重要な話が聞ける位置へ潜り込めて、アリアは出だしはまずまずと、喜ぶ。
(ふふん。間諜としてはコラーダ様の侍女という立場は、便利なのよね)
何しろ、必然的にランチャーの話を聞けるから、断片的でもヴァニス海軍の動きが探れるというもの。
情報が随一と言われる国だというのに、守りが甘いとも思った。
早速、潜り込めたという報告を持ち、買い物をするフリをしてある場所へ向かう。
そこは、どこにでもある様な露店売りで、そこの主へチラリとアリアが、視線を送ると主も、小さく頷く。
「あらぁ、これいいわね」
と、品物を見ながら、商品を取るフリをし主へ紙片を渡す。
しばらく、そこにいたアリアであったが、何も買わず邸へ引き返す。
紙片を受け取った主は、それを露店の下に隠していた鳩を出し、その鳩の足についている筒へ紙片を入れると、鳩を空へ解き放つ。
ヴァニス共和国内の混乱と共に、敵であるジェノヴェア公国の影が、静かに忍び寄ってくるのだ。