オケアノスの都 ー海神の三叉戟ー

□第4章 華やかな明、陰惨なる暗
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 水面を滑る様にして、ゴンドラが進む。
進む度、波紋ができて空から水面を映り込む満月が、ゆらゆらと揺れている。
ゴンドラに乗る男は、何度か自らの見て衣装がちゃんとしているか、確認をしていた。

「この私が……。はぁ」

 思わず、ため息と共に吐き出す。
男は、海軍士官でダインスレフ家の次男、グンナー=ダインスレフだ。
彼は今、夜会の招待を受けたニニアン家へと向かっている。
本来、招待を受ける様な立場でもないし、ニニアン家とも親しくない。
けれど、ある事が切っかけによって、グンナーは招待されたのだ。

「まさか、助けた女性がニニアン家の息女とは」

 グンナーでも、驚きを隠せなかった。
やがて、ゴンドラは目的地近くのゴンドラ着き場へ入る。
グンナーは降りて、水路から道への階段を上ると目の前に品のいい造りの邸が見えた。

「この様な邸に住んでみたいものですね」

 後に、この何気ない一言が現実となるのだが、今のグンナーは知る由もない。
邸へ人が、吸い込まれていく様に入っている。
もう一度、自分自身を確認した後にグンナーも、邸へ足を踏み込む。

(これは……)

 父と強硬派の会合や集いに顔を出していたけれど、その時は楽しめるものがなかった。
むしろ、男の相手をしなければいけないから、憂鬱なものを抱える。
が、今は実に晴れやかな気分だ。

「やぁ、こんばんは」
「おぉ、こんばんは」

 招待客同士、声をかけ合ってて豪華な衣装を惜し気もなく身に纏い、談笑に華を咲かせる賑やかな雰囲気に包まれる。
女性を伴っている者もいれば、気の合う者と連れ合っている者もいる。
更に中へ入り、会場となる広間では楽士のリュートや竪琴の美しい調べや、道化師の滑稽な即興劇があり、招待客を楽しませていた。

「よぉ! 主役の登場だぜ」

 聞き慣れた声が耳に入ると、えっと驚きながら声のした先を振り返る。
そこには、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべた、ティソーンを始め。アシュタ、クルテルの三人の姿があった。

「貴方たち!? 何でここに」

 招待客以外は、入る事を許されない。
万が一、忍び込んだりすれば騒ぎすらなるのに、ティソーンたちは平然としていた。

「俺たちは、ここの警備の任についたんだよ」
「警備ですって!?」

 ティソーンの言葉に、グンナーは呆然となり呆れて、言葉を失う。
招待客ではないから、むろんティソーンたちが元首主催の夜会など、入り込む余地などない。
だが、ティソーンはグンナーの招待を聞いて、ふと思いつく。
招待客でなくとも、入り込む算段を。

「総司令官も人手が欲しかったみたいだし、一石二鳥だよな」
「そういう悪知恵は、すぐに思いつくんだな」
「クルテル、人聞きの悪い事を言うなよ」

 クルテルへ冗談めかしに返した。


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