彼方の地平線を越えて

□01: 働かない者は宿もない
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 そのロアンの言葉を聞いて、強い口調で返した。

「多数に弱いなどと、片腹痛い。一対多数でも対応できるのが魔法の強みだ!」

 こう言うと、ロアンがフフっと笑いを漏らす。

「その息だ」

 彼の返答に多少、ムッとしたものの奮起したのも言うまでもない。キッとアクアリザードたちに視線を投げ、魔法を放つ。

「ファントムフォグ」

 二人を中心に白い霧が立ち込めて空間内を満たす。暗い空間なのに霧が満たせば更に視界が悪くなる。
それなのに、ヴェルデテスは霧で視界を不明瞭なものにあえてした。これに、ロアンが呟く。

「なるほど。面白いな」

 相手の姿を目で捉えられないが、ロアンには困らない。だからこそ、大胆に動けると喜ぶ。
一方のアクアリザード側は、霧の存在が致命的だった。暗がりでも彼らの目は二人の姿を捉えることができた。しかし、霧によって視界が狭まり有利だった状況が一気に劣勢となったのだ。
特に雌は困惑し動揺が大きかった。この隙を逃さず、ロアンは雌のアクアリザードに向かって駆け出す。
同時に、ヴェルデテスも動いて鞭をしならせ床を叩く。パァンと鞭特有の乾いた音が響いた。
音に反応し、雄のアクアリザードが集まり迎撃態勢を取るが、それこそヴェルデテスの狙いだった。

「この霧を視界を防ぐ為のものだけと思うなよ」

 ある魔法を発動させる為の前準備だった。大気中の水を激しく運動させ熱と共に静電気を生み出す。
腰に下げている短剣を手にすると、アクアリザードたちの元へ投げつけるが、当たらず集まる真ん中に刺さった。

「フェアリーロンド!」

 発動の言霊を発するや、短剣を中心にして放電が起こりそれが雄のアクアリザードたちを襲う。青白い淡い光が舞い、まるで妖精たちの踊りようだがその優雅で幻想的な光景とは裏腹に、威力は絶大だった。
放電による電撃と、それに伴う熱によって雄のアクアリザードたちは焼け爛れて絶命する。

「派手な魔法だな」

 と、呟きつつ雌のアクアリザードに迫り彼はひと薙ぎした。彼女が最後に目にしたのは自分を斬り倒すロアンの姿だった。
自慢の音波も聞こえなければ意味がないうえに、霧によってうまく発せられずロアンの姿も見えなかった。
また、ロアンは目だけでなく気配で雌のアクアリザードを捉えたのだ。
こうして、二人はアクアリザードたちを討伐する。

「はぁ、やれやれ」
「なかなかに、手強かった」

 短剣を回収したヴェルデテスが言うと、ロアンは鞘にしまいながら聞いてくる。

「怪我はないか?」
「何を言っている。私がそんなマヌケに見えるのか」
「いや、綺麗な顔に傷を負わせてしまったら悪いだろう」

 そう言うロアンの表情は真面目でバカにしたものはない。本気で心配しての言葉だけに、ヴェルデテスは反応に困り眉を寄せる。

「そ……そんな顔をするな。私は平気だ!」

 声を張り、格好をつけるとぬかるみに足を取られて転びかけた。それにロアンの腕が伸びてきて抱き止め支えてくれる。
その際、咄嗟にロアンの胸ぐらを掴んで間近で彼の顔を見つめることになった。狼の顔立ちなのだから当然、獣の顔なのだがしゅっとしており凛々しい感じがあり、ヴェルデテスの胸がドキッとなる。

「大丈夫か?」

 戦っている時は猛然とした雰囲気があるけれど、今は穏やかで優しい感じが漂う。


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