彼方の地平線を越えて

□01: 働かない者は宿もない
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 二人が下に降りると数匹の雄のアクアリザードと更に体躯の大きなアクアリザードがいた。大人を丸飲みできそうな口、鋭い爪に大きな体躯だけに威圧感がある。

「やはり、雌がいたか」
「すでに縄張りと化しているぞ。見ろ、卵がある」
「よく見えるな。俺にはアクアリザードがぼんやりと見えるだけなんだが」

 ロアンの指摘に、ヴェルデテスはふんと鼻を鳴らす。エルフは人よりも数倍の目と耳が良い。暗がりも星明かり程度でも視界が利く。
だからこそ、卵に気づけたのだ。

「気をつけろ。あの雄たちは先程の奴より強い」
「なるほど。女王の取り巻き。いや、護衛騎士というところか!」

 普通、雄を頂点にして多数の雌を従えているハーレムが一般的だが、アクアリザードの場合は逆の雌を頂点にした逆ハーレムだった。
雄のアクアリザードを見据え、ロアンが走る。この場所は何度か貯水しては放出をくり返していたので、床は泥が溜まりぬかるみとなって足元は悪い。けれど、ロアンはそれを物ともせず走り向かっていく。
雄のアクアリザードたちは吠えて、酸の粘液を吐き出す。通路より広いので難なく躱していくが、ロアンの表情は険しくなる。

「嫌なタイミングで吐き出してくる」

 間合いに入り刃を振ろうとする時に、粘液が飛んでくる。それを躱して別のアクアリザードへ迫ろうとしても、それを庇うようにして突進してきた。うまく連携され、攻めるに攻められない。
一方、ヴェルデテスは雌のアクアリザードに魔法を打ち出そうとするが、うっと呻き顔をしかめた。

「これが……唄か」

 唄と言っても、実際の声や音のものではない。現にロアンの方は聞こえてなかった。
特殊な音波を発しているのだ。恐らく、他の種族には聞こえないものだろうと思っている。

(目や耳が良いといっても、利点ばかりにはならないからな)

 強い刺激があれば、過敏に反応してしまう。今のヴェルデテスはキーーンと耳鳴りが響き、頭がズキズキしている。
そうなると魔法を使う為の集中力が削られて、うまくいかなくなる。なので鞭を手に接近を試みるが、近づけば近づくだけ耳鳴りが強くなりやむを得ず、距離を取るしかなかった。

「くっ!」

 距離を取ると、今度は雌アクアリザードからの攻撃がやってくる。水の名を関しているだけに、水を使った攻撃をしてきた。
水を勢いよく吐き出し、撃ってくる。拳大の水の球が風を切りヴェルデテスの頭上を通り過ぎ、後ろの壁に当たる。すると、鈍い音が響きめり込み水球が弾けた。
水球の当たった場所が抉れている。頭や身体に当たれば致命傷を免れない代物だ。

「あの金額なのは理解できる」

 雄のアクアリザードを倒すだけなら腕さえあれば、それ程の難しさはないが雌がおり縄張りとなったら難易度は跳ね上がる。
そんなヴェルデテスの背後に、ロアンが立つ。あれだけ動いているのに息一つ乱していないが、表情の険しさは変わらない。

「うまく連携されて、攻撃をしかけようにもうまくいかない」
「雌の唄で統制されている」
「唄か。俺には聞こえないが、さぞかしいい唄だろうな」
「私には単なる雑音でしかない」

 苛立つように返すと、ロアンはふむと間を置いてから。

「どうだ。お互い攻める相手を変えてみないか。ヴェルデテスが多数を相手にできるか定かではないが」

 こう提案して、挑発的にヴェルデテスに向けて言ってくる。


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