彼方の地平線を越えて

□01: 働かない者は宿もない
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 カンパニアの依頼をこなす者たちは、こなす依頼によって呼び方が変わってくる。
危険な生物を退治、賞金首の討伐、要人の警護といったものをこなす者は傭兵(マーセナリ)という。己の腕だけが頼りだが、一番やり易い利点もある。ただし、力量に見合わない依頼を受けたら最後、命を落とす危険が生じる。
やり易いから簡単ではない。内容が複雑ではないという話である。
調査や探索といった依頼をこなすのが、探検家(フィールドワーカー)だった。依頼された対象の探索、調査を行い時には報告書を提出することもある。
戦闘は勿論、観察力や分析力。知識といったものが必要となった。複雑な内容だけに、傭兵程の仕事がないもののその分の報酬は大きい。
この二つ以外の呼び方もあるが、今はヴェルデテスたちの行動を追っていく。
二人の姿はマルモナから離れた場所の川沿いの小道にある。小道は木々が生い茂る森の中で、左手には川が流れているのが目にできた。この川は森の奥にある水源地から流れてきており、森に住む動物たちの水と共にマルモナの人々の飲み水として利用している。
街へは川から直接取り入れてはおらず、離れた場所に建てた施設で取水し地下水路で街まで運んでいる。手間をかける理由が、生活排水と混ざらないようにするのと敵などに攻められた時、毒などで飲み水が使えない事態を防ぐ為だというが、ヴェルデテスたちには関係のないことだ。

「アクアリザードは、暗く湿った場所を好む性質がある。話を聞けば巣食うのも頷ける」
「詳しいのだな。ヴェルデテス」
「このくらい当然の知識だ」

 素直に感心するロアンを見て、呆れたように返したが妙にソワソワとしてきて、落ち着かない気分だった。自分自身の状態に、ヴェルデテスは首を傾げてしまう。

(何だこれは……)

 カンパニア支部でも、奇妙な状態になり戸惑ったがヴェルデテス自身でも不思議に思う。けれど、長い時間思考している訳にはいかなかった。

「ここのようだな」

 依頼書と共に取水施設までの道程と中の構造図が、ロアンの手元にある。横から構造図を見ると建物自体は二階建て、地下水路へと繋がる地下階段があるのが確認できた。

「管理点検の為、月に何度か見回るようだがアクアリザードがいるせいで地下の確認がほとんどできていないらしい」
「なるほど。それで」
「念の為に一階と二階も調べてから本番の地下だ」

 ロアンの意見に、ヴェルデテスは頷く。何気ないようでいて単に依頼をこなすだけの平凡な傭兵とは毛色が違った。
一階と二階を手分けして、見て回るが異変はなかった。

「やはり、地下か」
「二階だと日当たりが良すぎるし、一階でも逃げ場がないから、奴らにしても巣にする利点もない」

 ヴェルデテスが言うと、ロアンがふぅむと唸る。荷物からケース付きの手提げランプを取り出す。
光源は精製した灯油による炎だ。他のやり方で明かりを得られなくもないが、長丁場に向かず色々と不便なのでこれだ。

「俺が前へ行く。ヴェルデテスは後から灯りで照らしながらついてきてくれ」
「あぁ。任せろ」

 そう言うと、地下へと続く階段を降りていく。やがて、地下へ到着すると水が流れる音が響きヒンヤリとした空気に包まれる。
水を取り入れている機械の横を通り過ぎ、点検用の狭い通路を歩いてて地下水路と通じる経路でそれを見つける。


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