数匹のアクアリザードが通路上で寝そべり集まっている。
「いたぞ!」
ロアンの声と同時に、アクアリザードも二人の存在に気がつく。他のアクアリザードに吠えて警戒の唸り声を漏らす。
「数がいるな。大きさもある」
「感じからして雄たちだな」
説明した後、ヴェルデテスは腰の鞭を手にする一方の手提げランプは腰につけ、もう片方の手は自由にした。そして、ロアンは背中の剣を抜き構える。
反りのある片刃の剣。後にロアンからノダチという刀だと説明される。東方で造られる大型の刀だと。
「行くぞ!」
ロアンが吠え、床を蹴りアクアリザードに迫る。ひと振りすると一匹が真っ二つになった。
アクアリザードは鱗甲を呼ばれるもので覆われており、それが防御となり刃を阻む。けれど、ロアンはそれを物ともせずあっさり切り捨てたのだ。
(ロアン、凄いな。それとも、あの刀のお陰? いや、両方か)
なんて思っていると、アクアリザードたちも反撃してくる。強烈な突進。それを宙を舞って躱しそのアクアリザードを切った。
断末魔を上げ、そいつは死ぬが別のアクアリザードがロアンめがけ何か吐き出してくる。
「ウオっ!?」
驚きの声を上げ、身を捻って躱すが外套の端にそれがかかった。端は音を立てており、僅かに煙が出ている。
「気をつけろ! アクアリザードは強酸の粘液を吐いてくる」
「あぁ、わかってる」
ヴェルデテスの注意に答え、ロアンの眼光が鋭くなった。再び、アクアリザードが粘液を吐いてくるが。
「同じ手を食わせるか! 風よ!」
唱えて、発動の言霊を口にすると風の結界が取り巻きアクアリザードの粘液を弾き飛ばす。更に、風の力を操りアクアリザードに放つ。
「エアブレード!」
風が鋭い刃となり、アクアリザードを格子状に切り裂く。これを見てロアンが口笛を吹いた。
「理解した。ヴェルデテスは魔法使いか」
「正しくは、魔法術士。所詮は人間目線の区分けしかないが」
魔法を使う者は、一般的には魔法使いと称されているが使う幅によって異なっている。全体的に使える者は魔法術士(ウィザード)、2から3種類の幅だと魔術士(ソーサラー)、といった具合だ。
だが、この区分けはヴェルデテスは好んではない。自分たち妖人種は魔法は当たり前であり、何かしら使えるのが普通なのにいちいち区分されることの意味がピンとこないのである。
「この調子で、行くぞ!」
ロアンのかけ声で、ヴェルデテスも動く。狭い通路だが逆にヴェルデテスには利点になる。
「アイスヴァイン」
アクアリザードのいる床に白い蔓が広がった。それに触れたアクアリザードたちはたちまち凍りづけとなる。
これを見て、ロアンが刃を閃かせて一気に切った。
固い音が崩れて、アクアリザードの体躯がバラバラになって床に広がるのだった。
「ひとまず、ここは片付いたが」
「ロアンも気づていたのか」
意味深のヴェルデテスの言葉に、ロアンが頷く。二人は通路の先を更に進んだ。
狭い通路から一転して、広い空間に出た。通路は人工的な造りだったがこの空間の壁は自然にできた感じが見て取れた。
「元は地底湖のようだな」
「水を送るだけではなく、雨で増水した時の一時的な貯水槽として使い洪水などを防ぐのだろう」
今はそんな状態ではないから供給分だけの水が流れているだけで、空間の半分も満たない量である。それで水路の周辺は岸辺のようになっており、アクアリザードが居着くのは格好の場所だった。