一方の三人組は、相手が獣人とわかり少し怖じ気ずいたものの、獣人の苦笑を目にしていきり立った。
「何だお前、笑いやがって」
「なめるな!」
「構わねぇ、やっちまえ!」
リーダー格のひと声で、三人組が獣人へ向かっていく。これを獣人は冷静に対処する。
ナイフを持った相手に臆することなく迎え、刃を避け腕を叩いてナイフを落とし首筋を手刀で打ち気絶させた。二人目は向かってきた勢いに合わせて、地面へ投げ飛ばすとこいつは悶絶する。
これにリーダー格の男は慌て、思わず動きを止める。この隙を逃さずズイッと近づき、当て落としこの男も気絶させると周りからおぉっと驚きと感嘆が上がった。
「悪い。出しゃばったマネをした。けれど、見かけて放っておけなくてな」
謝りつつそう言って、獣人が立ち去ろうとする。
「待て、名を聞きたい。それに助けられ何もしないのは私の気が済まない」
強い口調で言って、獣人の前に回り込むと獣人は足を止めちょっと驚いた表情で目を見開き、困惑していたが。
「俺の名は、ロアン。ロアン=スリーオスだ」
名だけでなく、姓も名乗った。姓についてヴェルデテスは気になるが深く知るつもりはない。ロアンといったこの獣人が自分の知る獣人の印象と異なっていることに、興味を示す。
「宿を決めているのか?」
「いや、まだ決めてない」
「だったら、今夜の宿は私が奢る。これが助けてくれたことの礼だ」
これを聞いて、ロアンは迷いを覗かせる。
「悪い気がするが」
「私がいいと言っている。それに失礼なことを聞くが、宿を取る時に嫌な顔をされないか?」
この問いかけに怒ることなく、苦笑混じりで返してきた。
「あぁ、される。場合によったら馬小屋や物置に案内されたこともあった。それでおいて、しっかりと料金を請求するのだから笑ってしまう」
淡々とした様子で、落ち着いた話しぶりに尚更の興味が湧いた。この獣人のロアンは、見た目に反して理知的で風変わりだ。
これまで出会ってきた者たちには、一片の興味すら抱かなかったのにロアンはどうだろう。もっと、この者のことを知りたいとさえ思った。
「だったら、ちょうどよいではないか。私がいれば、少なくとも今夜は絶対そうさせないがな」
こう言うと、しばし思案していたロアンだったが穏やかに返答する。
「なら、甘えよう」
「決まりだな。さぁ、急ぐぞ。いくら宿場街といえど宿屋は有限だ」
先頭を切って早足で歩き出すと外套のフードを被り直すロアンもついてくる。こうして、ヴェルデテスはロアンと出会った。
旅の道連れとなるロアンとの最初の出会っであった。
<プロローグ 完>