タナトスを暴く者

□Case.06
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 ジュスティアと共に、問題の患者がやって来る。
彼は相変わらず、無頼者のような風体であるが紛れもなく、治安警察の捜査官である。

「悪いな。面倒なことを頼んでよ」
「ラルフ巡査から説明を聞いたが、もう少し詳しく話を聞きたい」

 本来、そうした情報を聞き出して調べるのは、エミーリアがやってくれているが、今は彼女は自宅に帰っていない。
そうなれば、自然とチェルーロ自身で行う。
ジュスティアは、少し迷うような素振りがあった。
捜査の段階だけに、得た情報を外部者に流すのは問題がある。だが、チェルーロに依頼した時点でジュスティアは、腹をくくっている。

「まぁ、あんたのことだ。あっちこっちしゃべらないだろうから」

 そう前置きをして、話を始めた。
絞殺と聞いて、外部の者が侵入して首を締めたのかと思ったが、患者がいたのは完全な密室だ。
ならば、自殺したのかと思って母親に最近の状況を聞き、遺書を探した。
けれど、遺書はなく母親もはっきりと自殺は考えられないと証言したのだ。

「俺だけじゃなく、周りも要領が得られなくてな。それに、検察医もどうやって首を締めたのかとわからなかったから、尚更だ」

 この辺りは、ラルフが言っていたことと同じである。
ひとまず、患者を診てみようと考えてチェルーロとベェルノーグは、患者と対面する。

「確かに、首に何か巻きついた痕があるな」
「はい。しかし、随分とゆっくりと締めたのか痕と言っても、うっすらとしてて……」

 何気ないベェルノーグの言葉を受け、チェルーロの眼光が一瞬だけ鋭くなる。

(まさか……? いや、まだ可能性だ)

 そう思いながら、ふと気になる。
ジュスティアを呼び、質問した。

「この患者を発見した時、格好はどんな格好をしていた」
「格好? あぁ、今聞かれて思い出した。寝間着を着込んでいたが、下半身のは前後ろが逆に穿いていたな」
「そうか」

 チェルーロの納得した声に、ジュスティアとラルフは顔を見合わせた。
ベェルノーグは、慎重に検視をしていて左の足の親指に、赤い痕があるのに気づく。

「何の痕でしょうか」
「それで、はっきりとしたな。首を締めたのは、この患者本人で間違いない」
「では、自殺?」

 ベェルノーグが言うと、チェルーロは苦笑を滲ませ首を横に振る。

「そう結論づけるなよ。患者は自殺をしようとして、"自分"の首を締めたのではないからな」
「それは……」

 三人の疑問に、チェルーロは驚くべき答えで返した。

「この患者は、夢中になり過ぎたんだ。恐らく、母親が発見した時は全裸か、もしくは下半身は曝していたかもしれない」
「あぁ、だから"逆"だったのか 」
「それは、つまり……」

 妙齢の男だけに、ジュスティアとラルフは勘づくが、ベェルノーグだけは瞬きを繰り返して、首を傾げている。
これに、チェルーロは眉を寄せ苦笑を浮かべ、多少の躊躇いを見せていたが結局言うのだ。


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