タナトスを暴く者

□Case.06
6ページ/18ページ

「それはいいが、肝心の患者は?」
「今、ジュスティア捜査官が上とかけ合ってます。運ばれるまでまだ少し時間がかかります」

 肩を竦め、ため息を吐く。先の事件でチェルーロがジョン=ライトの使った手口を、見事に暴いたのに比べて警察に所属している医師が見抜けなかったので、依頼するのに難色を示している。
どうやら、警察の依頼と言ってもジュスティアの単独の判断で行われるようだ。

「そんな。勝手なことをして大丈夫ですか?」
「えぇ。ジュスティア捜査官の単独判断は、今に始まってません。事件の解決となるなら法律を破る以外の方法は、問いませんから」

 こう言うので、ベェルノーグは眉を寄せチェルーロを見る。彼は苦笑をしていた。

「さぞかし、周りは疎ましがるだろうな」
「えぇ。ですが、ふんぞり返るのは私も捜査官も好きではありませんので」

 きっぱりと言い切った。
ベェルノーグは呆れたように見つめているが、チェルーロはふっと笑む。

「そこまでの覚悟があるなら、検案書を」
「はい」

 手にしていた書類を手渡してくる。
先の検察医の所見は、次の通りだ。
患者の性別は男で、年齢は20代後半。死因に関しては、はっきりとしている。首を締めての窒息死だとある。
これを見て、チェルーロの表情が怪訝そうなものとなり、ラルフに目を向けた。

「何がわからない。ここに、死因が入っているだろう」
「あぁ、説明が不足していました。わからないのは死因ではなく、単独でどうやって首を締めたかです」

 そう言われて、チェルーロは戸惑うのであった。
ラルフの説明によると、男が絞殺された状態で発見したのは、彼の母親である。
すぐさま警察が呼ばれ、駆けつけたのがジュスティアとラルフであった。

「最初は首に、紐が巻かれていたので何者かに殺されたのだと考えました」

 だが、戸締まりはしっかりとなされていたし、母親が息子の部屋に入ったが、実はドアには鍵がかけられていたので、ある意味で密室の状況だった。

「推理小説のような展開ですね」
「自殺じゃないのか」
「それも考えましたよ。でも、自殺したのに遺書などが見当たりませんでしたし、首を吊れる場所でもありませんでした」

 ラルフは言うのであったが、チェルーロの表情は憮然としている。
検死というのは、あくまで捜査の方向性を定める補助的な役割だ。
そうした背景を調べるのが、警察の役割ではないかと思う。

「無論、チェルーロ医師の言いたいこともわかりますが、私だけではなくジュスティア捜査官も、困惑しているので」
「要は死因の絞殺が、他者の手によるものか自分の手によるものか。判断がつかない。か?」
「えぇ」

 そう言われると、少しは納得できたのか表情を和らげる。
説明している間に、ジュスティア捜査官の方は何とかなったようで、警官がやって来てラルフに報告する。

「よし、ベェルノーグ。準備しろ」
「は、はい!」

 にわかに、慌ただしい空気が邸宅の中に広がるのであった。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ