タナトスを暴く者

□Case.06
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 無論、ジッと俯き流れる涙を拭う姿はあるが、とても静かな悲しみだけに打って変わった雰囲気なので、とても印象的だ。
死体検案書を書き、手続きを済ませると葬儀屋の運んできた棺桶に、子供を納めて運び出す。

「先生、本当にありがとうございました」
「最後に。あなた方のような子供思いの両親に生まれて、あの子は幸せだったと思います」

 チェルーロからの意外な言葉を受け、母親は目を大きく見開くもすぐに
目元を押さえ、顔を伏せる。
父親はそんな母親の肩に手を差し伸べ支え、棺桶と共々に邸宅を後にするのであった。
それから、残りの検死を終えてようやくひと息をつける頃には、すっかりと辺りは真っ暗となっていた。
夕食の席で、ベェルノーグは染々と漏らす。

「検死はどれも大変ですが、最初の子供の検死は無事にわかってホッとしましたが、その分辛い現実を突きつけられた形です」
「まぁな。子供の検死は必要だとわかってても、なるべくは受けたくないのは、俺も同じだ」

 チェルーロもため息混じりで言うのだ。
人はどんな形で死ぬかわからない。だからこそ、監察医という仕事は患者がどう死んだか。何があったのかと聞いてその言葉を遺された者に、伝える。
しかし、わかっていても未来が残っている存在は割り切れるものではない。
食事していた二人の手もいつしか止まり、二人して沈思する。

「もし、心室細動が起こったらどう対処すればいいのやら」
「可能性があるなら、もう一度衝撃を与えて元の動きに促し、戻すしかないだろうな」

 しかし、下手をすれば逆に悪化するかもしれない。危険な賭けだ。
治療というのは、命の危険と隣り合わせであるがチェルーロも、判断に迷う。

「科学が進み、あるいは治せる術を見つかるかもしれないが」

 今はどうにもできないな。と言うのであった。


 そうして、一日が終わろうとしていた。
ベッドで寝入っていたベェルノーグは、身体を揺らされたので目を覚ます。
瞼を開き眠たげな目で見上げると、手燭を手にしたチェルーロの姿があったので、驚き跳ね起きる。

「チ、チェルーロ医師!?」
「眠っていた中で悪いが、検死の依頼だ」

 それを聞いて、一瞬で頭が働きだす。
通常、昼間に検死を行うが件数が重なったり、あるいは緊急性のある件に関しては、受け付けている。
どうやら今回は後者のようだった。
慌ただしく身支度をして階下に降りると、先に降りていたチェルーロが依頼をしてきた者と、話している。

「ラルフ巡査!」

 依頼者のラルフ=フリードリヒとは、面識がある。目が合うと彼は会釈をしてきた。
それからチェルーロに向き直ると。

「夜分に検死の依頼をするのは、少々心苦しいのですが。こちらの検察医が頭を抱えてしまいまして」

 眉間に皺を寄せ、半ば申し訳ないといった顔で言ってくる。
先の事件のように、最初からチェルーロたちが関わっているならともかく、そうでなかったら警察から安易に検死を頼んだりしない。
頼んでくるのは、何か手詰まりとなったからだとベェルノーグは感じた。


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