タナトスを暴く者
□Case.06
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この説明をベェルノーグが行った。
「心臓震盪。あるいは心震盪とも言います」
「脳震盪は聞いたことがありますが……」
父親の呟きに、ベェルノーグは頷いて答えた。
「はい。心臓震盪も脳震盪も同じものです。ただ、危険度に関しては心臓震盪のが高いですが」
脳震盪は脳に外力が伝わり、一時的に意識障害を起こすものだ。
一方、心臓震盪も引き起こす仕組みは同じである。心臓に外力が伝わり揺れて起こる。
だが、心臓は心臓自体でリズムを刻んでいる。血液を送り出している器官だからだ。
「心臓のリズムが狂って心室細動と呼ばれる、乱れが生じます。それによって全身に血液が送れなくなり、心臓が停止してしまいます」
心臓震盪を起こした原因は、胸を強打して衝撃が心臓にまで伝わったことによるものだ。
無論、胸は肋骨や筋肉で守られているが、子供は大人より柔らかく打撃が伝わりやすい。
「お子さんは、胸で何か衝撃を受けたのかもしれません」
「そう言えば……」
ベェルノーグの言葉で母親は、何かを思い出したようだ。
「子供が倒れた時、近所の子と一緒に遊んでて、ふざけあっていたようで」
その際に、相手から突き飛ばされた何かをされ胸を強打したのだと、無論それが原因かはベェルノーグには判断できない。
だが、可能性は低くなかった。ましてや子供のことだ。力加減などは皆無だから胸を強打したのだろう。
「無遠慮なのが、子供の証拠と言える。注意しても聞き入れる程の耳もないだろうから」
それに、子供に降りかかる危険はこれだけではない。
木から落ちて怪我をするかもしれないし、川で溺れるかもしれない。
大人が考えている以上に、子供というのは無茶をするし、危険を顧みないものだ。
だからこそ、それを踏まえてベェルノーグは言う。
「例え、心臓震盪の原因が子供たちの非だっとしても、責めないでください。確率を言えば、途方もない低いものですから」
ただ、胸を打てば心室細動が引き起こすものでもない。リズムと噛み合って始めてそうなるのである。
意図的に引き起こそうなどと、できるものでもなかった。
(それに……)
自分が友達を殺したという事実は、とても重いものだ。
子供心に傷つき、後々にまで悪影響になりかねなかった。
そうした危惧を抱き、母親へ向け言ったのである。
「すみません。こんなことを勝手に……」
ベェルノーグが母親へ頭を下げると、彼女は横に首を振り返す。
「い、いいえ。心配するのはわかります」
先程の取り乱しようから打って変わって、穏やかな様子となりベェルノーグに頭を下げてくる。
これにベェルノーグは、目を丸くし驚いているとチェルーロにも、向き直るなり。
「先程は……あの、すみません」
と謝ってくるのだ。
父親の方も、びっくりして母親を見つめる。
さっきのようになるのではと身構えていただけに、拍子抜けしたような表情をしていた。