タナトスを暴く者

□Case.06
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 どうも、検死がやり難いようなそんな雰囲気が感じられた。

「自分自身で決めた道とはいえ、子供の検死は気が重くなる」

 いつになく、そんなことを口にするのだ。
ベェルノーグとチェルーロは、解剖を行う準備を整える。手術衣にマスクと手袋を身につけ解剖室へ入る。
子供は、あどけなさのある9歳の少年だった。死因は原因不明とある。

「依頼してきたのが、前にリグルドを診察した医師からでな。あの夫婦が子供を診療所に運んだ頃は、すでに手遅れだったと」
「いったい、何があって……」
「それを調べるのが、俺たちの役割だ。そうだろう?」

 チェルーロが促し聞いてくるのを、ベェルノーグは頷き返した。
まずは、この患者の衣服を脱がして検視で状態を確かめていく。
特に目立った外傷がなく、綺麗な外見である。無論、頭なども丹念に調べたが死因となるものが見受けられない。

「子供の死因特定は、大人よりも難しい。よくよく慎重に調べないと、遺された者も納得はしてくれない」
「そうですね……」

 ベェルノーグの目からチェルーロは、子供にメスを入れることに対して、僅かながらの迷いがあると感じた。
先程の母親の様子を思い出す。子供が死んだことに納得しておらず、検死をすることに反対をしているようだった。
それは母親に限らずだが、母性としての反応ではと思う。

「ふぅ」

 チェルーロが、大きくため息を吐き一度瞑目し、黙る。
それは長い時間ではなかったが、ベェルノーグには長く感じてしまう。

「始めるぞ。メス」
「は、はい」

 迷いを滲ませていたチェルーロの目から、迷いを断ち切り鋭い光を宿す。
メスを手にした瞬間、躊躇うことなく子供の身体にメスを入れるのであった。
切開して中を直接目にして、朧気ながら死因となる痕跡が目にできた。

「心外膜に、僅かながら出血した痕があるな」

 チェルーロが言う通り、微量ながら溢血点(いつけつてん)がついていた。心臓の他には肺にもあることから、呼吸ができなくなったことを示す。
程度から見れば酷いものではないけれど、できた場所が心臓という人が生きていく為にはとても大事な臓器の所だ。
これに思い当たる症例をベェルノーグは思い出す。

「心臓震盪(しんぞうしんとう)ですか!?」
「その症例の情報を多く集めてはないが、この患者の状況を見るとな」

 そう言うのを聞き、ベェルノーグは唇を固く結ぶ。
外傷がない点から見ても、それの可能性が強い。
解剖を終え、結果を持ち患者の両親の待つ応接室に二人は入る。
母親は落ち着いていたものの、こちらを見つめる目つきは恐ろしく光っている。一方の父親の方はずっと彼女をなだめていたのであろう。憔悴しきっていた。

「チェルーロ医師、死因がわかりましたか」

 母親の気を紛らす為、側についていたエミーリアが聞いてくる。
これに、チェルーロは頷き。

「あぁ、特定した。状況などから見て間違いない。患者は、心臓震盪で亡くなった」

 聞き慣れない言葉に、両親の表情が変わる。
互いに顔を見合わせていた。


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