タナトスを暴く者

□Case.06
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 その事件の犯人であるジョン=ライトは、裁判の結審後に勾留場から監獄に移される直前、死亡してしまう。
注目が集まっていただけに、様々な憶測を生み噂が囁かれたものだが、死因は脳梗塞による意識障害が元での死亡したと、ルイスは聞いている。

「憶測の中には毒殺されたのだという、突拍子もないものもありましたが死因は"はっきり"と、脳梗塞の所見があったそうです」
「突然死亡したのなら、そういう話題が出るのは仕方がないものだ」

 ブリスラはそう言ってみたものの、少し憮然となっていた。
この表情に、ルイスも苦笑を浮かべて語る。

「とにかく、その手口を暴いたチェルーロが評判となり、検死の鑑定を頼む人も増えたそうです」
「できることなら、国もそうした者を育成し活躍できる制度を、整えてもらいたいものだ」
「そうですね」

 ブリスラの言葉を、ルイスは一番に感じている。
レイバニアで起こったフスの熱病が、再び起こらないとは限らない。また、レイバニア以外の都市で発生する可能性だってある。
当時は、収拾することに念頭が置かれて病理解剖すら禁じられたのだ。結果、原因究明は未だできていないのである。

「だからこそ、未来を担う者に託した。彼ならばきっと……」

 ブリスラの呟きを、ルイスも感慨深く聞くのであった。


 邸宅に帰り着いたベェルノーグが、玄関のドアを開こうとすると女性の金切り声が耳に入る。
思わず、身を竦ませ動きが硬直した。
その声は、外からではなく中から聞こえたのだ。

「何だろう」

 恐る恐るドアを開くと玄関ホールにチェルーロがおり、その彼に食ってかかる女性がいた。それをワーナともう一人知らない男性がなだめ、抑えている。

「この人殺し!!」

 その声に、ベェルノーグはギクリとなるが、チェルーロは瞬きすらなく女性を静かに見つめ、動揺すらなく受け止めている。
これに、抑えていた男性が女性に向かって怒鳴ったのだ。

「おい、先生になんてことを!」
「この人は、私たちの大切な宝物を傷つける気なのよ。それにあの子は生きてるわ」

 そんな言い合いをしてて、ベェルノーグは困惑した様子で状況を見ている。
これに、チェルーロが気づきベェルノーグに目配せをする。ここに構わずに、検死の準備をしろと伝えてくる。
ベェルノーグは小さく頷いて、二階にある自身の部屋へ手にしていたカバンを放り入れると、慌ただしい足取りで地下にある解剖室に向かう。
準備室に入る前、解剖室の台に横たわる死体を目にして、目を見開き驚いた表情で声を出す。

「子供!?」
「……ったく」

 足音と声に、ベェルノーグは地上に繋がる階段へ振り返る。
降りてきたのは、チェルーロで何とかあの場を収めてきたようだ。

「チェルーロ医師、あの二人は?」
「あぁ。あの子の父親と母親さ」

 それを言ったチェルーロの表情に、普段にはない重苦しさが滲む。
いつもなら、検死に反対する者を時には辛辣な言葉を言い放つが、今回に限っては黙っていた。


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