タナトスを暴く者

□Case.05
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 次に見えたのは暗い天井である。ベェルノーグは呆然としていたが、自分の頬が濡れているのに気づく。
目元を手の甲で隠し、あぁと嘆息する。

「あの時の……か」

 ボソリと呟く。目元や頬を拭ってゆっくりと上半身を起こした。
窓へ視線を移すと、仄かに外が明るい。時間を確かめると夜明けの少し前だ。再び眠るには、時間が中途半端である。

「んーーっ!」

 腕を上げ背伸びして、ベッドから降りると机に近づき、一番上の引き出しを開く。
そこには、以前にブリスラより渡されたノートがしまってあった。
ノートを取り、しばらく考え込んでからページを開いて読み始める。


 フスの熱病が最初に確認されたのは、レイバニア近辺にある村からであった。村と言っても、その規模はちょっとした町ぐらいあり、その村は昔からある所ではなく、レイバニアに職を求めやって来た出稼ぎ労働者の村だった。
こうした箇所はこの村だけではないものの、より顕著に人口が集まっている。それは、レイバニアの国営企業の従業員たちの住まいがそこにあったからだ。

「国営企業ができる前は、のどかな田舎の村で数十人が住む小さかったのに、数年で人口も規模も数倍に膨らんだのか」

 国も国営企業の増産させていたので、労働者を欲して他の地域から流入してくる民をどんどんと住まわせた。
だが、住民の増える速度が速くて基盤として整備する速度が追いつかず、環境は不充分なものと書かれてあった。

「過剰な密度と不充分な衛生管理、病気が出てもおかしくない」

 眉を寄せ、そう呟く。フスの熱病の二の舞いを防ぐ為に、今は衛生面でうるさくなったが当時はそんなことより、労働者確保が優先であった。
実際、フスの熱病が発症する前からいくつかの病が発症をしていたが、誰も問題にしてなかった。抗生物質で抑えられていたし、病のかかった側も病気になっても黙っていたのだ。稼ぐ為である。
もし、病気であることが知れたら、すぐさま替えられしまう。それ程に熾烈であった。こうした背景がフスの熱病が広がった原因にもなったのではと、書き記されている。

「はぁ……」

 ため息をつき、ノートを閉じる。
これだけでも、ベェルノーグにとっては新たな事実であり、研究を進めるうえで重要な情報だ。

(衛生面の環境は最悪だったんだ。フスの熱病以外にも病気が蔓延していたなんて)

 それに、多数の人間が移動を繰り返していれば広く拡散したのも、わかる気がする。
恐らくは、フス族の人間もいた可能性があるので彼らの持つ、特有の病が何らかの形で自分たちジステラス人に入ってきたのだと考えられる。

「そうだとしても、フス族の人たちは熱病にはかからなかったり、かかっても酷くはなかったのは何故なのか?」

 いずれにしても、ベェルノーグはまだ医学士である。医師にもなっていない。
まだ学ぶべきものは、沢山ある。そう考えてノートを元の引き出しに入れてしまう。


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