オケアノスの都 ー海神の三叉戟ー

□第4章 華やかな明、陰惨なる暗
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 生きる為に、その選択しかなかったけれど、今のこの生活を嫌いではなかったし、遣り甲斐すらあった。

「それにしても、本当に水の上で暮らしているのね。ヴァニス人って」

 リアルト島は、普通の島とは少し毛色が違う。
地面となる部分が少ない上に、建物には杭が打ち込まれ大理石で補強をされている。
潮の満ち引きによって、島の海域もガラリと変わり、潟が広がる事もある。

「さてと」

 ゴンドラが着き場に到着し、水路から路地へと上がって歩く。
こうして、ホルク家の邸へ到着すると、間者とは思えないくらい堂々とホルク家を訪ねる。

「こんにちは〜〜」

 見慣れないアリアの姿に、邸の侍女たちは怪訝な顔をしながら、応対に出てくる。

「見慣れない人だねぇ」

 歳かさの侍女で、ジロジロとアリアを見つめてきた。

「あの、私はルシアさんの遠縁の者で、彼女の紹介で来ました。どうか、雇ってくださいませんか」
「あぁ、ルシアの」

 ルシアとは、以前までホルク家で下働きをしていた女性だ。
彼女は、下町で暮らすゴンドラ渡しの男と結婚し邸を辞めていったのだが。

「そうだねぇ。ルシアの代わりが、なかなか見つからなくて困っていたし」
「一生懸命に働きますから、お願いします」

 と、アリアはペコリと頭を下げる。
素直で真面目そうなアリアを、侍女は好感を覚えるけれど、雇うかどうかはホルク家の当主ランチャーの判断なので、勝手にいいと言えない。
そんな二人のやり取りの最中、邸から一人の女性が出てくる。

「どうしたの?」
「これは、コラーダ様」

 侍女が慌てるけれど、コラーダは大丈夫と返して。

「この者は?」
「はい。ルシアの遠縁で彼女の紹介で、この邸へ雇ってほしいと」

 侍女の言葉で、コラーダはアリアを視線を向ける。
アリアは、些か緊張を帯びた。

(コラーダ……と、言う事はホルク家当主の娘ね。それにしても……)

 事前情報として、ホルク家の内情を頭に叩き込んでいたけれど、コラーダが男勝りの女性で、武芸が大好きだと聞いていたので、もっとゴツい身体つきの女性を思い浮かべたけれど。

(なかなか、綺麗な方ね)

 ドレスを身にまとい、楚々した雰囲気が漂うだけに、どうもしっくりこない。

「アリア=マナと言います。お願いします!」

 コラーダへ頭を下げるアリアを見て、ふぅとコラーダが苦笑を混じりで小さくため息を吐き出す。

「そうね。今、私専属の侍女としている者が、歳で節々が痛むから台所の下働きに回してと、言っていたのよ」
「え?」
「いいわ。お父様には、私から話しておくから雇ってあげて」
「あ、ありがとうございます」

 こうして、アリアはホルク家の長女、コラーダの侍女として雇われる事となった。


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