彼方の地平線を越えて

□01: 働かない者は宿もない
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 リーズ王国領の都市マルモナは、下エーロハ地方へと続く要所であり王国南領にとっての最大の街だ。その為に、王国内にのみならず下エーロハ地方の国の人々が訪れて賑わっている。
その中には、ヴェルデテスの姿もあった。女性と見紛う美貌を持つエルフで鞣した革の胸当てに籠手や臑当て、色とりどりの玉があしらわれたベルトからはまとめられた鞭と短剣を下げている。

「賑やかなのはいいが、できることなら人目を避けたい」
「わかった。なら、大通りからではなく下町の路地を進もう」

 ヴェルデテスの隣にはもう一人いる。長身の大柄な体格で、背中に背丈程の長さの剣を背負う。
この者は、外套で身体を包みフードを目深に被っている。旅仲間のロアンだった。
怪しい出で立ちだがヴェルデテスは気にすることなく、慣れた様子で先を歩く。

「この街には、来たことあるのか?」
「何回か。大きな街だけに、カンパニアの支部もある」

 振り返りもせず、複雑に入り組む下町を抜けてマルモナの中央広場に出た。中央広場は、マルモナの政治と行政の中枢で様々な庁舎や施設がある中、ひと際目立つ建物こそ二人の目的地だ。
カンパニア マルモナ支部。カンパニアを示す剣とお金が秤に乗った天秤が描かれた意匠が掲げられている。正式名称はゼネラルカンパニアで、様々な依頼を受け登録された者たちへ仲介斡旋し、報酬を得る組織であった。
建物の中へ入るとロアンは、ようやくフードを取り払う。素顔は狼の顔そのもので獣人だった。
一瞬、周囲にいた者から注目されるがすぐに視線の気配が消える。ここに来る者たちには、獣人の存在はそれ程の重要性ではないようだ。

「ロアンが傭兵になったのもわかる」
「自分の見た目を理解しているから選択肢はなかった。それでも、最初は色々と揉めたものだ」

 こう話すが、ロアンには屈託がなく半ば冗談めいた響きがある。けれど、ヴェルデテスには愉快な内容ではない。

「見た目で影響を受けるなら私はどうだ。この顔だけで、女性だと判断され不愉快な目で見てくる」

 不快そうに言うと、ロアンが苦笑を浮かべるのだ。
そうして二人は、出入口の近くに設置されたボードに移動して貼られてある依頼を見ていく。ヴェルデテスの中で目ぼしいものはなかったがロアンの方はあったようだ。
彼は目をつけた依頼を受付窓口で発行してもらい、契約してきた。

「何の依頼だ?」
「街から少し外れた所にある取水施設で、アクアリザードを退治だ。巣食ってるらしい」

 金額もなかなかだがその分、厄介な内容である。金額に応じて依頼の難易度も変わるからだ。

「アクアリザードか。私も行こう」
「いや、一人でも大丈夫だ。それにヴェルデテスは、探索や調査が専門の探検家ではないのか」
「探検家が、傭兵より簡単で危険が少ないと思って言うならばそれは私への侮辱だ」

 ムッとなって言い返すと、ロアンは少し困った表情となる。

「そういうつもりで言ったのではないが。来てくれるとありがたいのが本音だからな」

 申し訳なさそうに言うと、ジッとヴェルデテスを見つめる。その目はどこか気遣うものがあり、人知れずヴェルデテスはドギマギするのだ。

「そ……そうか。ならば、問題ないな!」

 後の言葉を妙に強調すると、ロアンに背を向けるとサッサッと歩きだした。ロアンは不思議そうに首を傾げつつも後に続くのだった。


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