タナトスを暴く者

□Case.05
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 そうこうしていると、日が昇り窓から白い光がカーテンの隙間から差し込んでくる。
ベェルノーグはカーテンを開き、窓の外を見た。今日も一日が始まる。

「あの時もこんな風に夜明けを過ごしていた」

 姉が亡くなった夜、ベッドに潜り込んでも寝れなかった。
姉の遺体が棺桶に納められ、葬儀が行われていく光景をアンの隣で、ぼんやりとして眺めていたが夜、一人になると酷く恐怖に包まれた。

「……自分の……せいだ」

 ボソリと独り言を漏らす。
病の進行によってユーナが亡くなったのだと、今なら理屈としてわかっているのにベェルノーグは、どこか自分のせいだと今でも思ってしまう。
同じ名前の女性が亡くなったのを、無意識の安堵の一言だったとはいえ喜んだことの罰だと。
自己嫌悪と強迫観念が、己を蝕むように迫り精神は最悪だった。
それに一筋の光を与えてくれたのは、姉が生きていた頃に言ってくれた言葉を思い出したから。

『ベェルノーグは、本当に本が好きなのね』

 両親が亡くなって、修道院で暮らし始めて不安と心細い思いをしていたが、修道院には沢山の本が収蔵されていた。
中には珍しい本もあったので、好奇心を抱きベェルノーグは手に取り読み進める。そんなベェルノーグをユーナは、優しく微笑み見守ってくれた。
孤児院で暮らす同じ境遇の子供たちと、元気に活発に外で遊ぶ一方で、時おり貪るように本を読み込んで、修道院で暮らす人を驚かせる。
そんなことを思い出しながらその日の夜中に起き出し、一人で皆と過ごす広間に入るなり見つけたのだ。
机の上にあったのは、医学書であった。
医学書といっても専門的なものではなく、家庭て使える知識が書かれたものだったが、それを何気なく開き読むうちに天啓が降りてきた。

「これだ……」

 いつしか、時間を忘れて医学書を読み耽る。
ベェルノーグが、物事に夢中になるのはこの時からだった。
そうしている時、亡き姉が傍らにいる気がして読みながら、ベェルノーグは涙を流していた。
記憶の光景から、現在の状況へと返ってくるとベェルノーグは、窓の縁に置いていた手をギュッと握り、唇を固く結んで睨むように空を見つめる。

「絶対、フスの熱病を解き明かす」

 決意に満ちた調子で、自分自身を追い立てるようにして、大学へ行く準備を行うのであった。



<Case.05 Complete.>


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