タナトスを暴く者

□Case.03
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 サーズンクルス病院は、レイバニアの中で一、ニを争う最先端の技術を持つ病院で、そこに所属している医師はそれだけの技量を持つ分、同じぐらいにエリート意識が強い。また、病院での診察にしても相応の料金を取られる。
以前はもう少しは門戸は開いていたが、現院長であるワドラク=バーバヤに替わってから、この方針となっている。
そのワドラクのいる院長室へ、一人の男が入ってきた。

「院長、失礼します」
「うむ」

 頷いたワドラクが顔を上げると、白衣を着た学者風の男が立っていた。
名はリグルド=バーホーベンと言って、内科医を務めている。
リグルドはなかなかの遣り手で、出世頭として周囲から見られていた。
その筈だ。内科医の中でワドラクの目をかけられており、いずれは内科医の部長の地位につくと囁かれている。

「リグルドよ。そろそろ頃合いだと思うが、どうだ?」

 こう言われ、リグルドは最初は目を丸くし驚き、次には歓喜を隠せず笑むのである。
現在の内科医の部長は、前院長であったブリスラ時代に任命された者である。
それは、ワドラクとって面白くないことで、早々に刷新したかったけれど様々な理由があり、今までは見送られていた。
しかし、時間は経ちもう頃合いだと思って、リグルドに声をかけたのだ。

「まだ、医局長などには話していないが、部長には君を押す。そのつもりでいてくれ」
「それは光栄です。しかし、今の部長は賛成するでしょうか」
「心配はいらんよ。根回しをしておく。いくら、反対した所で民主的な多数決には敵うまい」

 そう言って、ニヤリと笑うのであった。


 一方、アカデミック大学のブリスラの元に、一人の医師が訪ねてくる。
白いものが混じった髪に顔にも、年齢を感じさせる皺が刻まれていた。
名はルイス=リマと言ってサーズンクルス病院で、内科医部長を務める。
見た目とは裏腹に、ブリスラより五歳も年下であった。
それなのに、同等の歳ぐらいに見えるのは気苦労によるせいだ。

「院長が辞めて、もう10年以上となります。早いものですね」
「ふふっ、それだけ歳を重ねたという訳だが、ルイスよ。儂はもう院長ではないぞ」

 ブリスラが笑って言うと、ルイスは頭を掻き照れたような表情となる。
だが、すぐに引っ込めて寂しげな笑みを見せ言うのである。

「病院は今の体制となり、良い医療を受けられるのは裕福な立場の者だけで、そうではない立場の者は門前払いとなっています」
「営利を求めるのだからある程度は、仕方のない部分があったとしても少々露骨過ぎる」

 ブリスラは嘆くけれど、自分はもはや病院を辞めた身であり、何か言える身分でもなかった。
できることと言えば、せいぜい自分を慕う病院に残っている者たちの愚痴を聞くだけだ。

(それも、もはや難しくなるかもしれんが)

 ルイスから先程、人事が行われるかもしれないと言っていた。
そうなれば、ルイスをはじめとしたブリスラの息のかかっていた医師は、辞めさせられるか。あるいは閑職に回される可能性があった。


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