タナトスを暴く者

□Case.02
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 どれだけ優れた制度やありがたい宗教、素晴らしい叡智があろうとも、不平等は生まれる。だが、唯一無二の真の平等が存在もしている。
老いも若きも、男も女も、金持ちと貧者。聖人と悪人。あらゆる垣根を越えた平等こそが死である。


 書斎で本を読んでいたチェルーロは、ふと顔を上げ窓の外を見やる。
視線の先の風景は石碑の並ぶ墓地であり、ちょうど葬列がやって来た。
それを見つめているチェルーロの目が、鋭くなり本を閉じジッと見つめた。

(あの棺桶に横たわる患者は、どんな死を迎えたのか)

 参列している者は棺桶に入る故人を悼み、瞑目している。
粛々とした様子に物悲しさはあるけれど、さりとて絶対的な悲しさだけではない。
故人の家族同士が、顔を合わせ静かに語り故人を偲んだ雰囲気もある。

「家族に見守られながらの幸せな死に方か」

 こうした死に方は、理想的である。だがそういう風に死ねない者もいるのは確かだ。
そう考えながら墓地から手元に視線を移し、再び本を読もうとする。

「旦那様!」

 従僕のワーナの呼ぶ声が響く。チェルーロは書斎を出て階段を降り、顔を覗かすと玄関ホールに一人の紳士がおり、ワーナが応対していた。
が、紳士とは別にもう一人の姿に、戸惑うように眉をひそめる。

「ワーナ、客は応接室に通せ」
「はい」

 ワーナが先導し、紳士を応接室に連れていく。
それから、多少の不機嫌さを表情で滲ませ階段を降り、紳士と共に現れた者に声をかけた。

「まだ、雇うと決めた訳じゃないぞ。ベェルノーグ」

 そう言うと、ベェルノーグと呼ばれた者は振り向き苦笑する。

「諦める気はないです。でも、今日はあの方の付き添いで来たので」

 そう返してきたのでチェルーロは肩を竦め、ため息をつくのだった。


 ベェルノーグが連れてきたのは、セスナという名の者で彼は当初は教授のブリスラを訪ね、ある相談事を持ちかけた。
相談に乗ったブリスラは自分が判断するより、チェルーロのが良いと言ってベェルノーグを伴わせ、案内させた。

「私は弁護士をしています」

 セスナは名と職業を名乗った。椅子に座る背筋をピンと伸ばし、顔には多少の緊張感を滲ませている。
職業柄のものか、あるいはチェルーロの噂を知っての反応かもしれない。

「ほぉ、弁護士ね。それがまた何で俺の所に?」

 最初に訪ねたのが、ブリスラと聞いてチェルーロはセスナの目的を、薄々は勘づいていたが念の為に問う。
セスナは少し視線を伏せ、慎重な様子で言葉を選び答える。

「あなたは、多くの死体に接した経験があるとブリスラ教授や、このベェルノーグ医学士から伺っています」
「まぁ……な」

 セスナの言葉を受け答え、ジロリとベェルノーグを睨む。けれど、ベェルノーグは当然の話をしただけといった顔つきである。

(チッ、意外に図太い神経をしてやがる)

 そう思いつつ、ワーナが出した紅茶を飲む。


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