タナトスを暴く者

□Case.01
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「元気そうで何よりだわ。でも、勉強に夢中になりすぎてないわよね」
「そ、それは……大丈夫です」
「本当に?」

 アンの心配そうな問いかけに、ベェルノーグはぎくりとしつつ何とか答える。
ベェルノーグの悪い癖で、没頭し過ぎて周りが見えなくなる。
それによって、実習に遅刻しそうになったり、チェルーロの目に止まったりとしているので、アンの心配も当然であった。

「しかし、明るい表情だし生き生きとしてるわ」
「それは、アカデミィアに入学できるようにと奔走してくださった、アン院長のお陰です」
「何を言っているの。ベェルノーグの努力した証よ」

 親のいない孤児院育ちの者が、アカデミィアに入れることなど難しかった。
けれど、アンはセントラルス寺院の司教ホウプ=ゾンターグと親交があり、そのホウプ司教がブリスラと、長い付き合いがあったのだ。
その縁で、優秀な若者がいるとブリスラに紹介され、アカデミィアの入学することができた。

(人の縁は、不思議だ)

 そう、染々と思う。
だからこそ、自分の犯した罪を今でも心を痛めている。
自分の心の痛みは、修道院の隣にある墓地に入るとより強くなった。
ベェルノーグは、ある墓の前に立つ。

「姉さん、あの時の場にチェルーロ医師と会っていたら、あなたの言葉を聞くことはできたでしょうか」

 ベェルノーグは独り言を呟く墓には、ユーナ=ロゼシュタインの名が刻まれてあった。
ベェルノーグの姉の名前であり、彼女はベェルノーグが少年の時に病で亡くなる。
ベェルノーグの姉だけではない。
ここに静かに眠る者のほとんどが、かつてレイバニアを襲った病で亡くなったのである。
今の人々の記憶に、そのことについては忘れ去られているが、ベェルノーグは忘れられなかった。

(ああした病は、また必ず起こる。だから自分は医師を目指した。その死を知るために)

 そう思いながら、姉の墓の前で空を見上げる。
灰色の淀んだ雲が、青い空を隠していく。
それを見つめながら、ベェルノーグは自分の決意を強めていくのであった。



<Case01 Complete.>


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