タナトスを暴く者

□Prologue
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 その瞳を映し出しているのは、何本もの立ち上る煙だ。
立ち上る煙の下では、赤々とした火が燃えているけれど、燃やされているのは先程までこちら側の人々であった。けれど、今は向こう側の者となっている。
ここは、郊外にある野原でいつもなら自分みたいな年頃の者が、元気よく走り回り無邪気に遊んでいたけれど、今はそれはなく代わりに亡くなった者が集められて、油を撒き焼かれていた。
思わず、ギュッと自分の胸元を掴んで顔を伏せ、表現を歪ませる。

「なんで……なんで皆は死んだの。なんで……」

 泣きそうな声で、呟いた。あどけなさの残る少年ベェルノーグ=ロゼシュタインは、突如に起こったことに心を痛め、悲しみ、嘆きを漏らす。
昨日まで、あの人たちは生きていた。ご飯を食べ泣き笑い、家族と話していた筈だ。
でも、今はそれらが炎に焼かれ灰となっていく。

「ベェルノーグ」

 名を呼ばれ、ベェルノーグが振り返った。
そこにいたのは、黒染めの服を着込んだ修道女である。この者は、野原の近くにある聖エルネスト修道院に所属しており、名をアン=ティーソンと言う。ベェルノーグの世話をしてくれている。
呼びかけながら彼女も隣にやって来て、ベェルノーグが見つめていた光景を目にし、表情を曇らせる。

「シスター様、何であの人たちは死んだの?」

 ベェルノーグが問うと眉を寄せ返答に迷いながらも、静かに返す。

「今、レイバニアの街では良くない病が流行っています。その病で亡くなった方々です」

 テンプリズム帝国の帝都レイバニアは、帝国の名に相応しい大きな都市である。だが、それ故の問題も多く様々な影もある中で、一番の影は伝染病の蔓延であった。
本来ならベェルノーグも、レイバニアの街で暮らしていた。しかし、この病によって両親を亡くして、姉とベェルノーグが修道院の保護を受ける。
以前の暮らしからすれば質素であるし、両親を亡くして辛かった。
それでも姉がいたし、修道院の人々も良くしてくれるからベェルノーグは、少年ながら心が慰められる。けれども、そんな幸せも長くはなかったのだ。

「ベェルノーグ?」

 アンにすがりつくようにベェルノーグが抱きつき、顔を隠す。
そんなベェルノーグの後頭部をアンが撫で、諭すように言った。

「大丈夫ですよ。お姉さんはきっと良くなりますから」
「……うん」

 アンの言葉でベェルノーグは頷く。
ベェルノーグの姉、ユーナも病にかかった。最初は微熱が続いたものの大したことなく、動いていたけれどそれから二週間後に、高熱を発して倒れた。
その症状は、街で流行っている病そのものだ。

(大丈夫だよ。きっと……良くなるから)

 ベェルノーグは、自分自身に言い聞かせる。
そうして、アンと共に修道院へ帰ってくると、妙にざわざわとしていた。


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