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□緋色のきもち
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我が主は美しい。
あの翡翠色の瞳は太陽に照らされて宝石のように輝き、肌は白く、絹糸のようになめらかな黒髪がそれらを際立たせる。
さらに優しいお心をもっていらっしゃって、誰に対しても慈愛の笑みを絶やさない。
そんな主を尊敬しているし、愛している。
その思いは未来永劫変わらない。
……しかし、主はどうだろう?
「だったらテイトに直接聞いてみればいいじゃねぇか」
「それが出来ればわざわざ貴様のような輩にに相談するわけがないであろう」
寝床である棺桶から上半身を出し、縁に肘をついた格好で、フラウは目の前の椅子に偉そうにふんぞり返るミカエルを見やった。いつもは澄んだ翡翠色をしているその瞳は、大天使の顕現により深い緋色に変わっている。
床に転がっていた目覚まし時計の針が深夜の2時を示しているのを見て、フラウは深々と溜め息をついた。
(今日は厄日だな…)
この日フラウは何の気なしにたまにはゆっくりしようかと、狩りにも行かず早めに寝床に潜り込んだ。しかし、いつ入れ替わったのかミカエルが断りもなくズカズカと部屋へ入ってきて、棺桶の蓋を引っ剥がし、熟睡していたフラウの金髪を掴んでハゲになってしまうんじゃないかと思うほど引っ張り上げて無理やり起こしてきたのだ。前髪がむしり取られるまえに潔く良く起き上がり、何の用かと問えば、テイトの自慢話を延々と聞かされた挙げ句こう言われた。
「主は私のことをどう思っていらっしゃるのだろうか」
と。
「貴様には判らないだろうな、ゼヘル。四六時中主のことをお慕い申し上げている私のこの苦悩を」
祈りを捧げるように天を仰ぎ自らの主のことを思って息をつくミカエルに、フラウは微妙な顔を浮かべた。
正直どうでもいい。
早くコイツが満足してテイトの奥深くに再び眠りにつくのをひたすら願うのみだ。
さっさと部屋から追い出してしまえばいいのだが、そうなれば後が怖い。今出来ることはミカエルが望む結論を出してやることだけだ。