*その他*

□『カナサンドー』@木手亜
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留学先の、アメリカでの生活。



「お前、誰に指図してんの?」



毎日同じ事の繰り返し。



「ひぃっ…ご、ごめんなさい、ゆるしっ…ぐはっ…!」



テニスの練習して



街中フラついて



絡んで来た奴ぶっ飛ばして



帰って寝る…



「喧嘩売ってきたなら、少しくらい楽しませろや。」



こっちに来てからは、そればっかりだ。



何かとストレスが溜まって、しょっちゅう喧嘩する。



『つまらねぇ……』



それでも、最初の頃は違った。



別にストレスも溜まってなかったし、喧嘩するような事もなかった。



俺がこうなったのは、あいつからの電話が減ってから…





『最近、受験勉強が忙しくて。』



『甲斐君や平古場君の勉強も見ないといけないもので。』



たまに電話を掛けてきたと思えば、そんな言葉ばかり並べやがる。



俺はいつも、あいつの話にテキトーに相槌を打つだけ。



そしてあいつは、そんな様子の俺に最後には決まってこう言う。



『すみません…』



すみません…俺が一番聞きたくない言葉。



なんで謝るんだよ。



俺が電話の時にテキトーな相槌打つのなんて、
今に始まった事じゃねぇじゃねぇか。



もし、電話を掛けられない事に対して
謝ってるんだとしたら、もっとムカつく。



分かってんだよ、俺だって…お前が忙しい事くらい。



でもよ、そんな風に謝られたりしたら、本当は別の事してて、
受験勉強っつって誤魔化してるみたいに思うじゃねぇか。



俺が聞きたいのは、そんな言葉じゃない…




( Pi ru ru ru ru Pi ru ru ru ru )




突然、携帯の着信音が鳴りだした。



俺は携帯をポケットから取り出し、画面を見る。




《木手 永四郎》




心臓がどくんと跳ねる。



正直、予想はしてた…



それでも実際確認すると、やっぱり怖くなる。



本当なら出た方が良いだろうし、俺自身あいつの声が聞きたい。



でも、もしまた謝られたら…



『すみません…』なんて言われたら…



俺はきっと、耐えられない。



「っ……」



手が震える。



目頭が熱くなる。



このまま出ないでいたら、相手の方から切るだろうか?



それとも、相手が留守番電話になるまで粘るだろうか?



どちらにせよ、俺から行動しない事に変わりはない…





「…はぁ……」




( Pi )




やっぱり駄目だ。



あいつの電話に出ないなんて事、俺にはできない。



声が、聞きたい…



「…なんだ。」



なるべく素っ気なく、何事もなかったように電話に出る。



『あぁ、亜久津君ですか?良かった…
なかなか出ないので、何かあったのかと…』



相手の声が聞こえた瞬間、柄にもなく泣きそうになった。



涙が出るのを必死で堪え、話を続ける。



「んな事どうでも良い…用件はなんだ。」



『あ、はい…亜久津君、今何処にいます?』



「…はぁ?」



訳が分からなかった。



いきなり電話してきたと思えば、何処にいるかだと?



「んなもん、アメリカに決まってんだろ。」



『いえ、そういう事ではなくてですね、具体的な場所を…』



「あぁ?…あー…ニューヨークの24番街にある…フリーコートだ。」



具体的な場所と言われても、この辺りは特別目立つ物がない。



仕方なく何かないかと探しながら歩いていると、
無人のフリーコートを見つけた。



他に目印になるような物もなかったので、とりあえずそれを伝える。



『そうですか…分かりました。では、しばらくそのコートにいて下さい。』



「はぁ?訳分からねぇ…なんでそんな事…」



『じゃあ、お願いしますね?あぁ、ところで…』



「話を反らすんじゃねぇ!」



少し怒鳴ってみたが、あいつは話を戻そうとしない。



そして結局話を反らされたまま、俺はコートのベンチで
ぼーっと相手の話を聞いてる。



すると、一瞬間を空けてから、
相手がいきなりおかしな事を聞いてきた。





『…亜久津君は、俺が傍にいるのは嫌ですか?』



「…はっ?」



急な展開に頭がついていかない。



どうしてそんな事を聞くのか、全く分からなかった。



『…どうですか?』



不安そうな声で聞いてくる。



そんな声出すんじゃねぇよ…



まるで、俺が悪者みたいじゃねぇか。



「…な、訳…っだろ……」



『えっ…?』



自分でも何を言ってるか分からないほど小声になってしまった。



そして、自分が悪いのは分かってるが、
聞き返された事に対して、少しイラッとする。



「っ…だから…嫌な訳ねぇだろっつってんだよ!!」



思わず声を荒げてしまう。



電話の向こうの相手は、一瞬驚いた
様子だったが、すぐに口を開いた。



『良かった…もし嫌だと言われたら、どうしようかと…
貯金をはたいてアメリカまで来たのに、無駄になるところでした。』



「えっ……」



後半の声だけ、背後から聞こえてくる。



バッと後ろを振り返ると、そこには今まで
電話越しに話していた、木手が立っていた。
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