*その他*

□『愛したヒト』@跡日
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俺は今、自室のベッドの上にいる。



そして、その俺の目の前には、後輩であり、
恋人でもある日吉若が、無防備な様子で眠っていた。



何故、こいつが俺の自室にいるのか…その訳は、2時間半前まで遡る。





この日俺は、引退前の部の決まりとして、
目の前で眠る相手に部長の引き継ぎをした。



本当ならそれが済んだところで帰ろうと思っていたのだが、
部室で荷物をまとめる俺に、相手が声を掛けてきた。



『今日の部活が終わったら、跡部さんの家行っても良いですか?』



『部長の心得とか、教えて頂きたいんで。』



どうしようかと一瞬迷ったが、恋人の頼みは
聞いてやろうと思い、承諾した。



その後、部活が終わり、迎えの車に乗り込んで帰宅して、今に至る。





「なんつー顔して寝てんだ、こいつ……」



俺は、気持ちよさそうに寝息をたてる恋人の頭をそっと撫でた。



現在18時37分。



俺の家に着いてから30分とたっていない。



「んぅ…ふぁ……」



俺の手の感触に気付いたのか、相手は欠伸をしながら目を覚ます。



寝起きで寝ぼけた表情に、俺は小さくクスリと笑った。





「…あれ…跡部さん、俺……」



「あれ、じゃねぇ…自分から来たいって言ったくせに、
俺様がちょっと目を離したら眠っちまってたんだよ。」



さっきまで目を擦ったりしていた相手は、俺の言葉を聞いた瞬間に
「しまった」と言うような表情になった。



「すみません、俺…せっかく、お邪魔させてもらったのに……」



申し訳なさそうにシュンと俯き、ベッドのシーツを握る。



その様子が可愛らしくて、ついつい口元が緩んでしまった。



「そんな顔すんじゃねぇよ…部長になって最初の部活だったんだ、
緊張とかで疲れが溜まったんだろ。」



「でも……」



「それに、お前が寝てる間、可愛い寝顔を
たっぷりと堪能させてもらったしな。」



「なっ…!?」



俺の言葉に、今度は顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクさせる。



やはり、こいつの反応はどれも可愛いし、面白い。





「な、なんで起こしてくれないんですかっ!!」



しばらくの沈黙の後、やっと声を発したと思えば、
まるで俺が悪いみたいな口振りだ。



『なんで俺様がお前を起こさなきゃならねぇんだ』



そんな言葉が出そうになるが、寸前でなんとか飲み込む。



そして、代わりに俺は相手を抱き締めた。



「ちょ、跡部さん……//」



相手の体温が上がっていくのが分かる。



鼓動も早くなっているし、相当緊張しているようだ。



その時、ふとさっきの寝顔が頭に浮かんだ。



「あんな顔、他の奴に見せるんじゃねぇぞ。」



「えっ…//?」



心の声が、つい口に出てしまった。



そんな俺の言葉がよく理解出来ないらしく、相手は俺から少し身体を離し、
顔をのぞき込んでくる。



どういう事かと不思議そうに首を傾げているが、それがまた可愛い。



キングと呼ばれる俺が、情けなくも
相手を独り占めしたいと思ってしまう。
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