*BLEACH*

□『馬鹿が風邪を引いた日』@マユ剣
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『馬鹿は風邪を引かない』



この話は、どうやら迷信らしいと言うことが分かった。





この世の馬鹿の代表とも言える、十一番隊の隊長。



更木剣八が、昨日から風邪を引いて寝込んでいるらしい。





病気なんて言葉が最も似合わない男。



死んでも病気になる事はないだろうと思っていた、私の恋人。



まさか、風邪ごときで奴の見舞いに行く事になるなど、思ってもみなかった。






「まったく、いい様だネ。」



奴の自室に着くなり、見下ろしながら悪態をついてやる。



症状がどの程度なのか、様子見も兼ねて、だが。



奴はチラリと此方を見て、ゆっくりと口を開く。



「…るせぇ……」



…どうやら、予想以上に重症らしい。



普段なら2、3の悪態で返してくる更木が、
一言ぽつりと呟くだけで終わってしまった。



「…もう少し何か返したらどうだネ?こっちの調子が狂うじゃないか。」



「怠ぃんだよ…風邪なんて滅多に引かねぇからな…」



「それくらい知っているヨ。だからこうして
見舞いに来てやっているんじゃないかネ。」



「お前の場合、茶化しに来たようにしか見えねぇよ…」



奴の言葉にククッと笑って返してやる。



どうやら、多少反論出来るだけの気力はあるようだ。



心なしか安心したところで、私は奴が横になっている隣に座る。



「どうせ昨日の大雨の中、傘もささずに稽古でもしていたんだろう?
相変わらずどうしようもないネ。」



「テメェ…馬鹿にしに来たなら帰れ。」



「断るヨ。お前の命令を受ける筋合いはないからネ。」



「チッ……」



なんだコイツと言わんばかりの表情で舌打ちをされる。



奴は本音を突かれると、いつもこうだ。



まぁ、普段なら胸倉も掴んでくるが。



(本当に調子が悪いんだネ…)



多少心配になる。



ただでさえ奴が寝込んでると聞いて心配でしょうがなかったのに、
これ以上心配事を増やさないでもらいたい。




「…熱は、計ったのかネ?」



うっすら汗をかき、苦しそうに呼吸をしている相手。



風邪だけでここまでなるだろうかと思い、
顔を隠す奴の腕を撫でてやりながら聞いてみた。



「…計ってねぇ。」



この男、自分が病人だということを理解しているのだろうか?



「はぁ…仕方ないネ、少しじっとしているんだヨ。」



そう言って顔から腕を退け、奴の額に自分の額を合わせる。




「なっ……//」



「…39.4度、といったところか…結構高いネ。」



もう少し低いかと思っていたが、意外と高めだった。



何故ここまで無理をするのかと思ったら、眉間にシワが寄る。



はぁ…と溜め息をつきながら離れてやると、
奴は私から視線を逸らし、頬を赤く染めていた。



「…何を照れているんだネ?」



「っ…な、なんでもねぇっ…ゴホッゴホッ!」



多少声を荒げただけで咳をしだす。



内心心配でしょうがないが顔には出さず、相手を
横に向かせて背中をさすってやる。



「大きな声を出すんじゃないヨ。自分が病人である事を弁えたまえ。」



「テメェ…ケホッ…」



弱々しく此方を睨んでくる更木。



こんなに弱い奴の姿を見たのは、いつ以来だろうか?



一番最近で…確か、私が石田雨竜に殺されかけた時だ。




私が研究所に戻った直後に駆け付けて、大泣きしながら
「俺を置いて行くな」と縋ってきた。



その姿は、普段周りの死神達から恐れられている
戦い好きの乱闘狂とはかけ離れており、まるで
親に捨てられた子供のようだった。



あの時、この男は自分が支えなければと、本気で思った。



自分が傍にいてやらなければ、と…
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