「こんにちは、地獄からやって来ました」
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俺の名はコクトー。
………あぁ、別に『ジャン・コクトー』じゃないから。
…………ん?『誰それ?』……ごめん。多分ジェネレーションギャップってやつだ。わかんないならそれでいい。
俺は、地獄に囚われている咎人。
抜け出そうと、一護の力を利用したが、失敗に終わり、地獄の最深部にまた堕とされた。
もう何回目なんだろうか。
何度も何度も地獄の番人・クシャナーダに刃向かい、その度に殺され、でも再生しての繰り返し。
永い刻を、そうやってきた。
………もう、疲れた。
今も暗い天空とカサカサと乾いた痛い砂漠の上に横たわり。
消えるその時を待つように。
ただただ、待っている。
……右胸にそっと触れる。
一護の月牙天衝でつけられたパックリとした切り傷は、塞がっている。
………体の傷は、あらかた塞がっているようだ。
ただ、体を起こそうとすると全身の骨が軋んでとてつもない痛みを発し、また起き上がる気力もないので横たわったまま。
起こしてもらうかしないと情けないが自分では動けない。
………なんてザマだ。
コクトーは歯軋りする。
死に損なうなんて最初っからわかってたのに。
いっそのこと。
(………この大地と、)
溶け合って一つになってしまいたい。
体が砂に沈んでいくような感覚。
しかしそれは幻覚。
(……もう。)
死んでしまいたい。
でも死ねない。
それが地獄の掟だから。
開けていた目を静かに閉じる。
思い浮かぶのは………
(妹………か)
愛する今は亡き妹の笑顔。
名前も思い出せない。
(ごめんな…………俺)
サイアクのにーちゃんだわ。
一護に言われて今更気がつく。
『てめぇの妹は、復讐を望んでたのか?』
『てめぇは妹も、終わらねぇ苦しみの中に引きずりこんでるんだ』
わかってたよ。
言われなくてもわかってたつもりだったけどさ。
やっぱ他人に改めて言われて気付くことって、あるんだな。
あーもぅまじでなっさけねぇ。
……………でも。
「逢いたい」
それは強烈な欲望でもあり、願いでもあった。
欲望が芽生えるそばから満たされていくような世界じゃ、体験することの無くなったこのむず痒さ。
妹に。一目でも。生まれ変わりでもいい。せめてもう一度だけ…………もう一度…………
やっぱムリか。
俺はここで朽ち果てるのを待つしかないのか………?
『逢いたいの、そこのお兄さん?』
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