Dance In The Dark

□#6
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PM.5:00。


ザッ、ザッ、ザッ……


裏霞ヶ関の路地に響く、鞋の音。


人と空間の境が無くなるこの世界において、薄闇の中を波打つようにして進む人の影。それはある意味で幻想的でもあり、一方で混沌という中へ人々を誘い、恐るべきものでもある。


そこに。


深編笠を目深に被った者が数人、縫うようにして歩を進め、空間を波打たせて行く。


その姿は密かだが雄大でしかしどことなく滑稽にも見える。それはここが少なからず近代に侵食されている聖地であるからなのであろうか。


闇に蠢く数人は、やがてある一軒家の玄関の前に立ち止まった。……白い洋館チックな小さい家。ここに件の男が滞在していると聞いて。




ピンポーン




一行のうちの一人がはめ込み式のインターホンを押す。




『……………………。』




……反応なし。一行は顔を見合わせ、頷き、もう一度インターホンを押す。





ピンポーン




すると。

『ガラガラガラ、……ドシュン!!』



「ドシュン……??」

インターホンを押した男が怪訝に呟く。



2秒後。



『………はーい』


呑気な男の声。一行は更に顔を見合わせ、肩をすくめると、インターホンに向かって、



「……伊藤修輔です。昨日の約束通りに」


右端にいたやや大柄の青年らしき人間が言う。




「あー……はいはい、わかりました──周りに誰もいませんね?」



インターホン越しの声が潜められる。伊藤は周りを見渡して「…はい」と応える。


「わかりました、ちょっと待って下さいね」


そう告げられると、ブツッと外線を切られる音が耳に張り付く。それを不愉快に思う暇は彼らにはなかった。


「お待たせしました」


と、切られてから4秒位でドアが開かれたからである。中は思ったより暗い。




一行は凝視した。



「………………。」



出てきた男の髪はぐしゃぐしゃで、しかも足は蛍光ピンクのクロックス。上着も急いで羽織ったんでヨレヨレです、的な雰囲気だ。上着はともかく、髪はワックスでそうしたのだと思いたい。





「……どうぞ、高杉晋助さん」

そう言い白い洋館から出てきた彼は、しかしながらほんの少し前とは打って変わって茶色く長い髪を冷たい夕暮れの風になびかせる。深い青色の、大きく鋭い瞳。黒のジャケットを羽織りインディゴのシャープボトムを穿いているためか、全身黒ずくめで烏を連想させる。……ただ、やはりツッカケ状態のピンククロックスがとても目立つ。それでも一瞬で鋭い雰囲気を身に纏わせるのはさすがだろう。いつもの微笑みを表皮に張り付けて。





「……じゃあ大久保さん、我々はここで」


そう伊藤が言う。上擦る声。真ん中にいる人物は何も言わない。黒い烏も微笑みを崩さない。



「はい。お疲れ様でした、伊藤さん、皆さん」


柔らかくそう言う烏。伊藤達は一つ会釈して去っていった。










「……よく承知してくれましたね、高杉さん」



「……あんまり気安く呼ぶなよ」


紫煙をくゆらせながらボソリと言う高杉。……眉間にシワが寄っているように見えるのは気のせいか。



「ただ純粋に感激してるだけですよ」



「……何に」



「意外と話のわかる方なんだなぁ、と。他の人なんかどんなに言ってもメンツを潰すからって利かないヒトいますからね……それでチャンス潰されてこっちの所為にされるし」


そう言って烏は楽しそうに笑う。対する紫蝶は、


「……俺はお前のグチ聞きに来たわけじゃねェんだ」


とやはり不機嫌に言い切る。



「……つれないですね」


大久保は可笑しそうに鼻で笑うと、「まあ、どうぞ」と高杉を中へ促した。




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