黒嬢と神楽執事
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───なんなんだあいつは!?
腸(はらわた)が煮えたくる程、というのはたぶん
こういう心理状態のことを言うのだろう。
彼女は不機嫌そのものの顔でカツカツと大理石の廊下を歩いていた。
驚いた使用人数人が血の気をなくし、さっ、と壁の方に退くのがわかったが気にしない。
(だいたい、主人である私が指定した時間を平気で破る執事など今まで聞いたこともない!!!)
だからわざとらしい執事の交代式などいらないのだ。
それよりなら、普通に入れ替わってフツーに仕事をしてくれた方が何万倍もありがたい。
重い服も体にイライラの負荷を増やすように重くのしかかる。
白く、鋭さと高貴さを内包した顔の眉間に深くシワを寄せ。
風を切り、奥の自室へと向かう。
途中────
カラァァァン
しまった。
懐へしまっていた鏡を落としてしまった。
かなり早歩きだったため、結構遠くに落ちている。
(煩わしい)
拾いに戻ろうとした──その時。
『どうぞ』
自分の目の前にさっきの鏡が渡された。
「あぁ‥‥‥すまぬ」
そう彼女は言って鏡を受け取った。
そう何気なく相手の顔を見た時。
「貴様‥‥見ない顔だな‥‥‥‥新入りか?」
その男は少しだけ微笑むと口を開いた。
「はい‥‥この度からこちらのお屋敷でお世話になります───」
ピリリリリッ
鳴ったのは私のケータイだった。
「あぁ‥‥‥すまぬ、交代式の時間が迫っているらしい」
「そうでございますね」
「貴様も出るのだろう?」
「はい、もちろんでございます」
「ならまたその時に話をしてくれ。それでもよいか」
「かしこまりました」
「では、またな」
急いで式場へと向かった。
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