Dance In The Dark
□#5 Venus Who has a brown HAIR
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真選組屯所は、騒然としていた。
理由は、『副長と沖田隊長がとっても美人の女性を連れてきた』からであった。
女性──メアリーが通された部屋の隣室の襖からは、たくさんの隊士達が覗き見、彼女はそれが気にかかっていた(というよりほとんど勘に障っていた)が、気にしない振りをしていた。……粛粛とした彼女だが、実は違うようである。
「まったく、まさか土方さんが女をタラしこんでくるとは思わなかったでさぁ」
いかにも幻滅しました、という様子で沖田がはあ、と盛大に溜息をついて言う。
「何が『タラしこむ』だ!!目の前でぶっ倒れられたら、治療受けさせないでいられるかよ」
土方は若干キレながら答える。
「なんで病院に行かせなかったんですかぃ?」
沖田が口を尖らせると、
「病院が空いてるとも限らねぇし、もし重傷だったら処置の遅れは命取りになる。……それに、一般病院に入れたら、因縁つけたあの浪士共の仲間がまた狙うとも限らねぇ」
沖田は眉をひそめる。
「……って、言いやすと?」
土方も声を潜めた。
「……あの女は芸妓だろ?なら、攘夷組織の機密情報の一つや二つ持っているかもしれねぇ。だから」
『ぶつかった、と言うのは真実でもあって嘘でもあり、彼女を口封じのため抹殺しようと浪士共はした、というワケか』
「近藤さん!!」
そう言って入ってきたのは真選組局長・近藤勲。土方から話を聞き、さっきまで土方と浪士の尋問をしていたのだ。
「近藤さん、遅かったですねぃ、またメガネんとこの姉ちゃんのストーキングでも?」
沖田が笑いながら言う。
「い……いやいや、そんな訳ないでしょ!!ちゃんと尋問してきたから!!地の文にも書いてあるでしょ!!」
「いやいや、筆者にワイロ渡してそう書いてと依頼した可能性も……」
「ないない、絶対ない!!真選組だよ!!警察だよ!!」
「……堕ちるとこまで堕ちたな、近藤さん」
「な……ちょっとトシまで!!トシさっきまで一緒いたよね!?姿見てたよね!?」
あれこれ言い合う3人。一方、別室のメアリーは、というと……
「はい、処置終わりました。……痛くないですか?」
真選組密偵・山崎退が、メアリーの肩の傷の応急処置をしていた。
「……僕が出来るのは応急処置までですので……しっかりした治療は、後で病院にお送りしますから、そこで」
「いえいえ、とんでもございません!助けて頂いたばかりか、このようなことまで……本当に、何とお礼を申し上げたらいいのか……」
「いやいや、あそこで見捨てるような非情な警察じゃありませんから、僕らは」
山崎が笑って言う。どことなく顔が赤い。
(……う、嬉しいんだけど……ど、どうすれば……)
山崎が戸惑っていたのは、部屋の襖の隙間から発射される「オマエ何いい人ぶってんだコラァ」オーラである。発射元はこの部屋を取り囲む無数の隊士達&幹部達であることは言うまでもない。
「……あの、山崎様」
「は、はいぃぃい!?」
声が緊張で上擦ってしまった。メアリーはその声に怪訝な顔で頭をコクン、と斜めに傾けた。……水商売の女とは到底思えない無垢さが漂う。
(や、やべぇーーー!!!マジ可愛いんだけどこの女[ひと]!!!ヤバいどーしよどーしよ)
ともかく、平安を装い、メアリーに正対する。
「山崎様は、お医者様なんですか?」
「……はい?」
「いや、治療など手慣れた様子でいらっしゃったので……」
山崎はいやいや、と
「ココに入る前はそんなこともしてました。それだけです」
と苦笑いして言い、遠い目をした。……もう、昔の話、である。
「そうなんですか……」
メアリーも遠い目で、部屋を見る。彼の表情から、何か汲み取ったものでもあったのだろうか。
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