Dance In The Dark
□#5 Venus Who has a brown HAIR
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「……大丈夫か?」
沖田が始末しに行った後の現場では、土方が女から話を聞いていた。
「はい。酷いケガもありませんし、助けて頂いてありがとうございました」
丁寧にペこりとお辞儀をされたので、土方も慌てて「いやいや」と頭を下げた。
「それにしても、来るのが遅れてすまなかったな」
土方がそう言うと、女は「いえいえ」と、
「周りの方々もやはりあまりこういうのには関わりたくないみたいで……いろいろ注意していたのですが、結果メンチを切られてしまうような振る舞いをしてしまったので……反省しております」
そのまま「すみませんでした」と頭を下げられそうな勢いだったので土方は
「いやいや!!そういうこともあるさ、気をつけていても。まあ、そういう時は何とかして、俺らを頼ってくれ」
自分でも何を言っているねかわからなくなった土方は居場所が悪そうに頭を掻いた。女は「本当にすいません」と丁寧に謝ると、若干の上目遣いで傍らの土方を見た。
「……………!!」
美しい、とシャウトしそうになった己の口を土方は必死に閉じた。女はそれを見て「どうかなさいましたか?」と首をかしげて問う。土方はそれだけにも『萌え』た。
女はなめらかで艶やかな、光を受けて柔らかく反射している長い茶色の髪をしていた。耳の後ろあたりの毛は三つ編みにされている。
顔つきは日本人と言うには違和感があり、ダブルのようにも思える。目は紫の瞳でややはっきりしていて、まつげが長めで鼻が高く、唇はピンク色に潤っていた。
服は印度支那の国々の民族衣装であるアオザイとクワンを着ていて、アオザイは真っ青で胸部には胸当てがされ、胴部の裾の近くに鳳凰らしき鳥の刺繍が金でされてある。
彼女にはどことなく清楚な香りが漂っていた。土方は慣れないこの清楚さにドキドキし、まともに彼女の顔を見れなくなってしまった。話題を変えて心の鎮静化を試みる。
「ところでアンタ……江戸の人か?」
女は「はい」と言い、
「私は日本人ではないのですが……江戸で自由気ままに芸妓をやっております」
土方は「え?」と耳を疑った。彼女の清楚さと水の世界での特有な女臭さとは似ても似つかない。彼女のような芸妓が本当にいるなら、それは奇跡のようなものだった。
「あなたもお座敷にはいらっしゃいますか?」
女はくすくすと、恋人へ向けるように微笑み、土方の返答を待つ。
「あ、ああ……」
「なら、もしかしたらどこかでお会い出来るかもしれませんね」
そう言って、帰り際「ありがとうございました」ともう一度丁寧にお礼を言うと、街の方へ歩き出していく。
「あなたの名前は??」
そう問うた時、1番ビックリしたのは言った土方自身だった。
「……メアリーです」
女──メアリーはやや遠慮がちに目線を外して言った。そして、その場に倒れ落ちた。
「おい、大丈夫ですかぃ!!」
駆け寄って来たのは沖田。返り血はほとんど浴びず、さすが1番隊隊長だが、顔に少し切り傷が出来ていた。
「大丈夫です……」
そう言い、メアリーは立ち上がろうとしたが、肩を押さえ込み動かなくなってしまった。土方が「全然大丈夫じゃねーだろ」と毒づきながら駆け寄り、肩にそっと触れると、メアリーは『う゛っ……』と苦しそうに息を漏らした。
「さっき肩を痛めたのか……」
土方はそう言うと、沖田に肩を支えさせ、パトカーに乗せ、とある所に彼女を連れていった。
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