Dance In The Dark
□#1 来航者
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《鬼兵隊 旗艦 貴賓室》
「……………………」
時が鈍々としてなかなか進まない。
彼女はこれまでにない程緊張していた。
もう少ししたら、件の交渉相手が来る。
南方の一大勢力と言われる、彼らが。
「あんまり緊張すると侮られますよ、また子さん」
後ろから声がした。
「……別にそんなんじゃないっス……武市先輩」
彼女───来島また子はくすみのない金髪を少し揺らして平然と、でもどこか苦し紛れに聞こえる声で応えた。
最初に話し掛けた髷を結ったポーカーフェイスの男───武市変平太が続ける。
「彼らは私達の動きを敏感に察知しますからね。……つけ込むスキを見つけたらすぐ喰らいにかかりますよ。」
また子はわずかに眉根を寄せた。
「事実彼らがパトロンを増やしていったのは、交渉相手のスキを巧みにつき、弱みを握って、しかしお互いに平等な関係を構築し、信用させるというアメとムチのやり方があったからなんです。
……ただ強引に服従を迫るわけではない。お互いにカバーしあってるんです」
ただ、こちらが下目線に見られるのは必至ですがね、と武市は締め括った。
「つまり………」
「晋助とは合いそうで合わない感じでござるな」
「万斉先輩(殿)!」
「大帝殿はご立腹だ」
「機嫌が悪いって………どういうことスか?」
万斉はかくかくしかじか、とさっきの出来事を語った。
「いや、あんたが晋助様の地雷源に踏み込んで勝手に機嫌悪くしてんじゃないスか!!!」
「忠告のつもりで言ったのだがな……元々ご機嫌ななめで火に油を注ぐ結果だったらしい」
「いや、らしいっつか場合によっては狙ってたとも受け取られかねない感じっスよ」
「今回は何かあったら責任は負えないでござるよ」
「負えないじゃなくて負わないっスね」
「ま、何かあったらよろしく頼むでござるよ」
「おぃぃいぃぃぃ!!!!!!『』消せー!!!!」
「来島様、河上様、武市様」
不意にふすまの向こうから声がした。
「何用でござるか」
万斉が答える。
「『彼ら』がもうすぐご到着、とのことです」
───空気が凍る。
「……わかった。すぐ行く」
万斉がいつになく珍しい掠れた声で応じた。