長篇小説
□君に嘘をついた
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「最近、山ちゃんに甘えなくなったね」
学校帰りのスタバ、
斜め横の椅子に腰掛けた裕翔君に言われる。
「うーん、そうかもね」
あの日から、なんとなく涼介の事は避けていた。
仕事場ではいつも通りにふるまってるけど、今までのようにはできないみたい。
「まあ、もう甘えるような年じゃないし」
なんて、強がってみた。
「ふーん」
裕翔君は肩肘つきながら、じっと僕を見る。
涼介と、僕と、裕翔君。
ずっと一緒のグループ、学校では一緒のクラス。
でも僕にとっての裕翔君は、どちらかといえば学校の男友達みたいな気軽な存在。
わいわい騒いでバカな話して、それが普通だよね。
”涼介に振られちゃった・・・” なんてもちろん言えるわけもなく、
それでも何となくギクシャクしてるのを、裕翔君は不思議に思ってるみたい。
「ちいはさ・・・」
「ん?」
「男の方が好きなの?」
唐突に言われて思わず咽せる。
「はあ?なんで」
「女の子の方が好き?」
うーん・・・
わからない。
正直、涼介を好きになるまでは「可愛いな」とか、「綺麗だな」とか思っても誰かを想ってドキドキして胸が苦しかったり、ずっと一緒にいたいとか、つきあいたいとか・・・
そんな風に思った事なかった。
可愛い子と話したりすると優越感があって、この子の事が好きなのかな?って子供っぽく勘違いしてた事もあったけど
それは恋じゃないって今は思う。
だから・・・
どうなんだろ?
涼介が好きだけど男だから好きってわけじゃないし、涼介がもし女の子だったとしても多分好きになったと思う。
「・・・わかんない」
「わかんないんだ」
「うん。そんな本気で恋とかした事ないし」
「じゃあさ・・・」
裕翔君が少し身を乗り出して顔を近づける。
「俺とつきあってみない?」
キラキラした無邪気な瞳。
まるで「ねえ今日映画行かない?」っていうくらいのノリで言われて
僕は唖然としてしまった。
「ユーティ何言ってんの」
カップの上のクリームをくるくる回しながら僕が言うと、
「冗談じゃなくて、本気で」
と、裕翔君に手首を掴まれた。
本気で?なんで?
全く意味がわかんない。
「ユーティさあ・・・僕の事好きなの?」
「好き」
「つきあいたいっていう”好き”なの?」
「本気だよ俺は」
冗談ばっかり。
と、呆れ気味の僕に裕翔君が提案する。
「じゃあお試しで。付き合おうよ!いいでしょ?」
「やだよ」
「なんで嫌なの?嫌い?」
「嫌いじゃないけど、友達だし。」
「嫌いじゃないならいいじゃん。それにさ・・・」
俺と付き合って、山ちゃんにヤキモチ妬かせない?だって。
なんだかめちゃくちゃな提案だ。
「何言ってんの、妬くわけないじゃん。涼介だってただの友達なんだから」
そう。
友達以上のナニモノでもないんだから。
裕翔君の知らない所で、僕もう振られちゃってるんだから。
「でもおためしならいいでしょ?」「恋人ごっこのつもりで」「俺と付き合ったら幸せにするよ」なんて、あまりしつこく食い下がるし
僕も・・・
もしかしたら涼介以外の人を好きになれるかもしれないし
裕翔君の事は正直言ってどう考えても友達としか思えないけど、そこまで言うなら。
「お試しなら・・・」
と了解してしまった。
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