長篇小説
□幸福な王子
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蛇のようにうねるカーブを抜けるとナビが予定地への到着を知らせ、予約をしていたコテージが見えた。
別棟にレストランがついている、4人でも充分な広さの2階建て貸しコテージ。
チェックインするとともに
「俺ちょっと休憩」
と、自分のベッドをキープして高木が横たわった。
「せっかくだし、ちょっと散歩して来るか」
そう言って山田が知念を連れて外に出る。
冬の那須は寒く、山の上の方は雪が積もっているのが見えた。
まだ18時を回った所だが、周りに民家がないせいかすでに真っ暗で都心とはだいぶ違う。
澄んだ冷たい空気と、自分たち以外に誰もいないように思えるほどの静けさが辺りを包み込んでいた。
「ほんと人がいないね」
「そうだな」
「もう星が出てる」
コテージの裏側にあった小川の畔の、四阿のベンチに2人で腰掛けた。
「寒いね」
そう言って縮こまると、山田が自分のマフラーを外して当たり前のように知念の首に巻く。
ごく自然な手つきだ。
「涼介は寒くないの?」
「俺は寒くないよ」
そう言って笑う山田の息が白い。
寒くない筈ないよね。
知念はそう思いながら、山田の横顔を眺めた。
影ができるくらいに長い睫毛。
中性的で、いつ見ても美しいその造形に、知念はつい見とれてしまう。
「なんだよ」
視線に気づいた山田が、はにかんだ。
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