長篇小説
□てぶくろ
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電話を切って携帯をマネージャーさんに預けると、ふいに後ろから肩を叩かれた。
僕が今一緒にドラマのお仕事をさせてもらってる、先輩の山下君。
慌てて思わず立ち上がると
「座ってていいよ、休憩中なんだから」
って、優しく笑って言ってくれる。
「あと1時間くらい待ちになるみたい」
来るはずの共演者が移動に間に合わず、昼から撮影が押していた。
横に座る山下君に僕はいつも激しく緊張してしまう。
同じ事務所って言っても普段そんなに会う事もないから、”先輩”って言うよりも”テレビで見るスター”という感じ。
普段周りにいるメンバーとかとは違ってやっぱり大人の落ち着きがあって、僕ももっと大人になったらこういう風になれるかなあ?
いや絶対違うよね。でも僕は僕だし・・・なんて考えたりもして。
撮影が始まってもう一ヶ月近く経つっていうのに、山下君の前ではまだ背筋がガチガチに固まってしまっていた。
「知念君って意外と・・・って言ったら失礼だけど、彼女いるんだ」
突然山下君がそう言うので、僕は何の話かわからずポカンとしてしまった。
「さっきの電話、彼女でしょ?」
「まさか!違いますよ」
「嘘だ、俺そういう勘すごい良いんだけど。あ、じゃあ好きな子だ? 」
「いえいえ、本当にそんなんじゃないですよ」
否定しながらも、『好きな子』と言われてなぜか顔が熱くなるのが自分でもわかる。
好きとかじゃない、つもりだけど・・・
そんな風に言われると、周りからはそう見えちゃうのかなって
なんだか恥ずかしい。
「いいなあ18歳の恋」
山下君が完全に誤解してるので、
「いや本当に誤解です!さっきの電話、メンバーの山田からです」
と、僕は白状した。
「えっ山田君?本当に?」
「はい」
「知念君て、仲間とか友達にもあんな顔すんの?誤解されるでしょ」
「・・・僕、そんな顔してましたか」
思わず両手で顔を触った。
自分では全く気づかなかったな。
「女の子とかさ、あんな顔されたら自分に気があるって勘違いしちゃうかもよ」
と、山下君が笑う。
僕、一体どんな顔してたんだろ・・・
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