長篇小説
□僕たちの失敗
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「・・・裕翔君」
手に持ったカメラ。
いつも僕たちをよく撮ってる、黒くて大きな、裕翔君自慢の一眼レフ。
「何を・・・」
「知念たら全然気づかないんだもん。俺最初からそこにいたのに」
裕翔君の明るい声に、僕は息を飲んだ。
「ほらスタッフがあんなとこにラック置いちゃったから見えなかったよね」
ラック・・・
よく見ると確かにいつもはない衣装のラックが置いてある。その後ろに裕翔君がいたなんて、僕はちっとも気づかなかった。
「新しいレンズがね、ほらこれ。100ミリのレンズ。試してみたかったの。ちょうど山ちゃんが寝てたからさあ、シャッターチャンスって思って」
いつもの裕翔君だ。
さっきの・・・気づかなかったのかな。
それなのに、なぜか嫌な予感がぬぐえない。
僕の気のせいかな・・・。
「100ミリだとさ、このくらい、ひかないと撮れなくて、ラックの後ろから照準を合わせたとこに知念が入って来たの」
僕は何も言えず、ただ裕翔君の顔色を伺うように、じっとその視線から目を逸らせずにいた。
喉がカラカラなのに、手が汗ばむ。
裕翔君は、何を言おうとしてるの?
いつもの優しい顔が、
なんだか、怖い。
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