長篇小説

□春の夢
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「は、はじめまして」

緊張でおもわず目が泳いでしまう。

「駅に行くなら送るよ、乗って」

そういうと沢渡は、後部席のドアを開けて、自分も乗る。

戸惑いながらも断る理由もなく、続いて僕は車に乗り込んだ。

スピーカーからは小さくジャズが流れてる。
高級そうな車、タバコの匂い。
運転席には、マネージャーさんなのか、もう少し若そうな感じの男の人がいた。

ソワソワ、視線が落ち着かない。
沢渡が自分の事を知っててくれた嬉しさもあったけど、
それ以上にすごく緊張してしまって

妙に息苦しかった。



「先月、山田君がオーディション受けたの知ってるよね?」

「はい」

「山田君とは仲良いの?」

「はい」

どうしよう、「ハイ」しか答えられない。

監督と話ができる、せっかくのチャンスなのに、何か面白い事が言えるといいのに・・・

そう思いながらも、喉がつまったみたいに僕は何も言えなかった。



「今のところ、山田君と、あと他の事務所だけど白石君っていう新人の子が最終候補なんだよね」

「そ、そうなんですか」


最終候補、さすが涼介。
決まるといいな・・・


「あの・・・」

何かアピールしなきゃ
僕は焦って続けた。

「うちの山田はすごく監督の作品が好きなんです。だから選んでいただけると嬉しいです」

早口でそう言って、
言葉間違ってないかな、失礼な事を言ってないかな、と思いながら、チラッと沢渡の表情を覗いたら、鋭い視線とぶつかった。



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