Others
□falsetto
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だいぶ前に裕翔がくれた革のブレスレットは、いつの間にかゆるくなった。
革紐が伸びたのか、僕の手首が痩せたのかはわからない。
机の上にある高校の頃の写真は、ほんの少し前の事みたいで、もうずっと昔のような気もする。
こうして改めて見ると、裕翔はすごく大人っぽくなった。
背も伸びて、細かった身体も最近はすっかり男っぽく厚みがある身体になった。
周りの気持ちによく気づくようになったし、昔より優しく柔らかくなった。
僕も、少しは大人になったんだろうか。
声も変わって背も伸びた。
可愛いだけじゃダメだとか、そんなわかりきった事も最近は周りから言われなくなった。
でも、できる事なら大人になんかなりたくない。
ずっとあの頃みたいに、笑っていられたら良かった。
学校帰りの井の頭公園、こっそり手を繋いで、その影を黙って見つめたあの日。
僕の肩をぎこちなく掴むと、少し屈んで、キスをした。
真面目なとこも、優しいとこも、ちょっと融通がきかなくて頑固なとこも好きだった。
ねえ裕翔
今、裕翔は誰を想ってるんだろう。
誰と恋してるんだろう。
好きになる事が不安だった僕を、いつも優しく包んでくれた。
躊躇う毎にゆっくり待ってくれて、時々は強引に手を引いてくれたね。
さよならの言葉は、抜けない棘のように胸に突き刺さったまま。
どうして、と心では叫んでた。
だけど現実は何も言えず、「そう」とただ呟いてその手を離した。
強く結ばれていたはずなのに、風で飛んでく風船みたいにいとも簡単に解けて、あっという間に見えなくなる。
忘れて、笑って、いつも通りに過ごそう。
泣きたい心を隠して、幸せな顔をして見せよう。
だけど毎朝鏡の前で思うんだ。
昨日までの僕は、どんな顔をしていたんだろう。
.つづく