散文
□ベッドのおはなし。
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俺のベッドに潜り込んだ知念が、「あ」と、一言小さな声を出した。
「ん?どした」
俺が訊くと、
「別に、何でもない」
と言う。
なんでもない。
知念の「なんでもない」と「どっちでもいい」は、俺の経験から言えば黄色信号。要注意だ。
「なんだよ、言えよ」
と更に突っ込むと、
「なんだっけ、忘れちゃった」
と白々しくしらばっくれるので、俺は知念の体に覆いかぶさるように跨って、動きを封じる。
それから驚いて目を丸くしてる知念の腰のあたりを、思いっきりくすぐってやると、「待って待って!」と、知念は笑い転げながら白旗をあげた。
「で、何?」
ベッドの中、向かい合わせて横たわってもう一度知念に訊くと、知念は言いにくそうにゴニョゴニョといろいろ言い訳しながら、
「ベッドが…広いなって思ったの」
と、ボソッと呟いた。
確かに前までは狭いシングルだった俺のベッド。
それを少し広いベッドに買い換えたのは、知念が広いベッドが好きだとか言ったからなのに。
「お前ね…」
デコピンでもしてやろうと知念のほうに伸ばした手を、俺はいったん引っ込めて、知念の肘のあたりから背中をグッと力いっぱい引き寄せてその体を抱いた。
「りょーすけ?」
きつく抱きしめられて、少しうろたえた知念が俺の名前を呼ぶ。
俺は腕を緩めてやらない。
トクントクンと心臓が鳴る。
これ、俺の鼓動かな。それとも知念の?
抱きしめられて知念は急におとなしくなって、俺も妙にドキドキしてしまう。
「これで全然広くないだろ?」
って俺が言ったら、
「えー、きゅーくつなんですけど…」
なんて知念はボソボソと文句を言いながらも、
俺の腕から逃れようとはしなかった。
.ベッドのおはなし おわり
2012.8.22