散文

□太陽の素顔
1ページ/1ページ



俺の隣にひっついて座ってるくせに、知念はさっきから裕翔君の話を熱心に聞いている。

今のテーマはジュースの濃縮還元とストレートの違いらしい。

ついさっきまではカメラを手に「ひしゃかいしんど」がどーたらこーたら…って話をしてたような。

知念はだいたいそうやって、誰に対しても話を否定せずに良く聞いてくれる。

俺で言ったら、

たとえば幽霊がいたって話なんかすると大体の奴は「見間違いだろ」とか「嘘だ」って言うけど、知念に限っては一旦全部受け入れて、「僕も見てみたいな」とか言ってくる。

そういう所が居心地良くて、だからこそメンバーの誰からも愛されてるんだろうなって俺は思う。

不思議な奴だ。


だけど、昔っから知念はそんな風だったろうかと、ふと思う。

7でデビューした頃、知念は無邪気でちょこまかしてて、

あの頃は正直、人の話なんかあんまり聞いてなかったような気がする。

当時は誰かが話してても「僕は」って、割と自分の話をしたがった。

自己主張をあまりしなくなったって言ったら語弊があるのかな…。

ただ大人になっただけなのかもしれない。

俺だってやっぱり変わったし、みんな大人になったなって思う。

だけどいつからだろう?って考えると、NYCとしての活動が決まった頃のことが、どうしても頭に浮かんでしまう。

NYCは、俺にとっても知念にとっても大切な居場所のひとつだけど、あの頃は周りも俺たち自身も少しだけギクシャクしてたように思う。


みんな「おめでとう」って言ってくれた。

「がんばれよ」って。

だけど、

俺と知念だけが、帰る場所がふたつになるという不安。


何気ない大ちゃんの一言に、知念の笑顔が一瞬崩れたのを俺は見た。

「なんか、ジャンプ結成の時の事思い出した」


本当何気ない一言。

大ちゃんは全然そんなつもりじゃなかったと思う。

でもあの時、裕翔君や雄也はどういう気持ちだったんだろう

Hey! Say! 7でデビューして、それが急にメンバーを増やしてHey! Say! JUMPに変わった時の事。

あの時の事を思い出していた大ちゃん。

そういう意味では薮君や光君だって同じかもしれない。

NYCのデビューが決まった時、きっと誰だって思った。

「JUMPはどうなるの?」



掛け持ちなんて出来ない

JUMPの活動が疎かになる

そんな風に誰にも言われないように、知念と2人で必死で頑張って来た。

どちらも手を抜かず、ちゃんとどちらも認められたい。


ファンの子の中には、NYCについて未だに納得出来ない子もいるっていう事も知っている。

それでもNYCは、JUMPと同じように、俺たちにとっては大切にしたい居場所のひとつだ。


あの頃から知念は、すごく変わった気がする。

すごく優しくなった。

周りをいつも気遣って、時にはそっと気配を消したように静かになる。

朝からNYCの仕事が入っていて、その後すぐJUMPと合流してコンリハに入るって時も、知念はいつも元気いっぱいでメンバーと笑っていた。

ついさっきまで仕事をしてて、クタクタなはずなのにそんな顔は微塵も見せない。

知念は、そうやって周りの壁を取り払った。

そしてそうする術を俺にも教えてくれた気がする。


今、目の前でニコニコ笑いながら裕翔君の話を聞いてる知念。

「知念、面白いか?その話」

俺が半分からかってそう言ったら裕翔君が、

「ちょっとぉ、ひどいよ山ちゃん」と高い声を上げて抗議する。

「大丈夫、ちゃんと面白いよ」と知念が笑ってフォローした。



俺とふたりきりになるとき、知念の素顔がふと垣間見れる。

長い時間、ずっと会話がない時もある。

移動中、そっと俺の肩に凭れてぼんやり外を見ていたり、お互い黙って別の本を読んでたり。

喧嘩してるわけでもなく、話したくないわけでもなく、

ただ無理に話したりしなくても平気な空気がそこにはある。


他のメンバーには見せない素顔の知念を、多分俺は誰より見ている。

そうであって欲しいと思う。



「お前、あんま頑張るなよ」

帰り道、立ち寄ったコンビニで何気なくそう言うと、知念は俺の顔をチラッと見て、

それから何も言わず、「ふふ」と、ただ少し照れたように小さく笑った。




「太陽の素顔」おわり
2012.8.19

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ