散文

□誰がこまどりをころしたの?
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膝に置いた手を、ギュッと固く握って、その目は何も捉える事なく、宙空をぼんやり彷徨っていた。


ほんの数日前までは、その視線の先にはいつも山田がいた。

太陽を見るように眩しげに目を細めて、彼はいつも山田の事を見つめていた。

むしろ彼自身が太陽みたいにキラキラと瞳を輝かせ、怖いほどの純真さで。

そんな知念を見るのが俺の楽しみでもあったのに、まるで今日は様子が変わってしまっている。

椅子に座った姿は妙に姿勢が良く、騒ついた楽屋の中で1人、気配を消そうとしてるように、呼吸さえも読み取れないくらいに微塵も動かない。

ずっと見つめていると彼の影がどろりと濃く感じ、その闇に足の先から飲まれているような錯覚をする。


ああ、彼の中で何かが死んだのだ

なぜかそんな風に思った。



「どうした知念」

そう声をかけると

「何、薮君」と、アイドルの笑顔で俺を見上げる。

「ボーッとしちゃった」

明るい声と表情で隠そうとする。



無理すんな。

そう喉まで出掛かるものの、言ったらその小さな体が、かえってその闇に沈んで行くような気がして言えない。

なぜそんな風に思うのかと言われたら、具体的には説明がつかないのに。

音もなく雨雲が広がって、いつもそこにあった明るいひだまりに影が差した。そんな気がした。


誰がこまどりをころしたの?



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